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第390話.疑問

自分の表情についても気になるが、それよりもやっぱりあの音が気になって仕方がない。 「アヤメさん、さっき。何かを削る、ような音が、しましたが、あれは?」 「削る? あぁ、あれね。あれは指輪を変身させる時に使った接着剤を取ってたの。少し傷をつけると綺麗に取れるから」 その音だったんだ。 「指輪に、傷がついた、かと思った、ので……」 「心配させちゃったのね。でも、実を言うと私も心配だったの。1年以上経つと接着剤がうまく剥がれなくなることがあって。あの接着剤は特殊で、そうなると元には戻せなくなっちゃうから」 だから急いでいたんだ。 「それをオーナーも知ってたから、静くんに会いに行った時に首から下げた指輪を持って来ようとしたことがあったのよ。でもそういう時に限って静くんが指輪を手で握っていて、持ち帰ることは出来なかったって言ってたの」 夢だと思っていたことは、夢じゃなかったんだ。 「この指輪は、心の支え、だったから、盗られる、と思ったの、かも、しれません」 手放しちゃいけないって思っていたから。 指輪がなくなったら、みんなとももう会えなくなると思っていた。 今思うと『みんな』ではなく『鈴成さん』とだと分かる。 「でも良かったわ。傷のない状態で、昔と変わらない状態で返すことが出来て」 「僕も、嬉しい、です」 もう一度ギュッと握ってからチェーンに通して首から下げた。 戻ってきてくれて、ありがとう 諒平さんと明さんの所に戻ると、2人とも僕の首に下がっている指輪を見て微笑んでくれた。 「戻ってきたんだな」 明さんは微笑んで頭を撫でてくれた。 「うん」 「鈴成くんにも伝えないとな。きっと喜ぶぞ」 「うんっ!」 鈴成さんが喜んだ姿を思い描くと、嬉しくてまた胸が温かくなる。 指輪が無傷で戻ってきた嬉しさとの相乗効果で、幸せな気分が振り切れそうだ。 「静」 「静ちゃん」 明さんと諒平さんが驚いたようにこちらを見ている。 「どうしたの?」 明さんに抱き締められて、諒平さんも頭を撫でてくる。 「お前が感情を取り戻すのは、いつも鈴成くんとのことが要因で……少し嫉妬するよ」 僕は笑ったのだろうか……? 前の時も自分では笑ったという自覚は無かった。 「僕は……笑ったの………?」 その質問に明さんはギュッと腕に力を入れる。 「静、ゆっくりでいいよ。また周りのみんなとたくさん話して、嬉しい、楽しいって思うことをすればいい」 「うん、ありがとう」 僕の周りには素敵な人であふれている。 みんなに心配をかけてしまった。 待っていてくれたみんなに恩返しができたらいいな。 明後日には編入試験があって、その後寮に戻ることになっている。 明さんや拓海さんや晴臣さんと長い時間一緒にいられるのも後少し。 明日はたくさん話せたらいいな。

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