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第392話.心配と期待
「疲れたんですね」
「そうだな。ベッドで過ごすのとは違うからな」
静くんは食事が終わってデザートになってもみんなと話をしていた。
紅茶を飲み始めた頃から眠そうにしていたが、今では完全に眠っている。
みんなと話す姿も眠った姿も、どちらも天使だ。
車椅子を押して他の人達と一緒に駅に向かった。
駅に着くと、病院に向かうグループと諒平さんと風間先生、鈴とハルくんに分かれる。
諒平さんと風間先生が静くんの顔を見ると、癒されたのか笑顔になって帰って行く。
ハルくんは起こさないように頭を撫でると鈴のために少し離れた所に立った。
「ハルくん、今日は来てくれてありがとう。学校でのことは鈴とハルくんの2人に任せるね」
「はい。まだまだ未熟ですけど、力になりたいって思ってます。あと、そこまで心配はいらないと思いますよ……? クラスのみんなも静くんが早く帰って来ないかなって待ってますから」
ハルくんは思い出すように少し見上げる。
「待ってくれている人がいるとね、その逆の人が必ず現れるんだ。今、成績が1位の人には十分注意をして欲しい」
胸騒ぎがする
この胸騒ぎは静くんが学校に復帰することが決まってから、ずっと続いている。
襲われるようなことはないと思うけど、ひどい言葉をかけられそうな気がする。
静くんが中学生の時に受けた心の傷を抉るようなことはして欲しくない。
秀明さんのところに行く直前の静くんなら全く気にする事は無いと分かる。でも今の静くんは少しの刺激にも過剰に反応してしまうくらい繊細だ。
ひどい言葉に対して自傷行為が止められなくなる可能性もある。
「成績1位の人? ああ、あの子は真面目な子でそういうことはしなさそうですよ……? でも、注意して見てみますね」
真面目な子ほど、言葉をオブラートには包まずストレートに伝える傾向がある。
自分が一緒に戻れたらいいのだが、そういう訳にもいかない。
頼みは敦くん、誠くん、長谷くん、芹沼くん、そしてハルくんと鈴だ。
たくさんいるようで、先生の2人は贔屓をすると言われかねないから、接し方も難しい。
「ありがとう。でも贔屓だなんて言われないように気をつけてね」
「そっか……難しいですね」
「成績1位の人は静くんと同じクラスの子なの?」
「いえ、隣のクラスだったと思います。ただ、合同授業は一緒ですね」
「何の話をしているんだ?」
いつの間にか鈴がすぐそばにいた。
「学校での静くんは2人に任せるって話だよ」
「兄貴は何が気になってる?」
「静くんがいなくなって成績1位になった子がまたその地位を静くんに奪われたら、面白くないだろうと思ってね」
鈴は納得したように頷く。
「生徒たちのことに教師はあまり介入しないことになっているから、佐々木くんや河上くんに気をつけるように兄貴から言っておいてくれるか?」
心配そうに静くんを見る鈴の心も傷つきそうだ。
それでも、2人なら乗り越えられる、そう期待も出来る。
「拓海、そろそろ病院に戻るぞ」
「はい! じゃあ2人とも、明後日から静くんのことよろしくね。何かあればいつでも相談に乗るから」
「はい、ありがとうございます」
「分かった」
鈴とハルくんは反対側のホームに向かう。
病院に戻ってからも静くんは起きることが無かった。
また眠ったままになってしまったかと思ったが、翌日目を覚まして本当にホッとした。
「拓海さん、明さん、僕は、いつも2人に、守られてる、ね」
その日は朝からずっと話をした。
途中からは晴臣さんも加わった。
話を聞いて静くんの心は傷を癒し始めていると感じた。
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