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第393話.明るい表情

「拓海さん、明さん、僕は、いつも2人に、守られてる、ね」 「静くん?」 昨日疲れて眠ってしまった静くんは約12時間目を覚ますことは無かった。 今朝目を覚まして明さんと僕を見て、静くんは開口一番にそう言った。 「もっと、強くなりたい……1人でも、生きて、いけるように」 迷惑をかけていると思っているのだろう。 僕達が静くんのことを大好きで、家族だと思っていると言っているのも、静くんを元気付ける為の嘘だと考えているのかもしれない。 「静くん、人は1人では生きていけないよ。それに僕の中で静くんと敦くんと誠くん、最近になって増えたけど、来夢くんの4人は息子だって思ってるんだ。大事な家族だって」 「………迷惑じゃ………」 不安だと顔に書いてある。 表情が戻るのに時間がかかると思っていたが、そんなことは無さそうだ。 「迷惑なんて有り得ないよ。僕が家族になりたいって思ってるんだから」 「静、拓海は本気だよ。正式に婚約した時に言われたんだ。静、敦くん、誠くんが家族に対して不安があるなら、養子縁組をして本当の家族になりたいとな。最近になってそこに来夢くんも加わったよ」 見上げられて頷く。 「話をしてみたら少しの不満はあっても、みんな家族を大事に思ってる。だから実現はしないだろうけど、心の中では家族だって思ってる。だから迷惑はかけて欲しいし、かけたことを後悔する必要もないよ」 頭を撫でると何かを言いたそうにするが、口を閉じてしまった。 「何でも言っていいんだよ」 「……嬉しくて……でも、何か、言ったら、夢になって、しまいそうで」 なんでこんなに可愛いんだろう。 目を伏せると睫毛が長いことが良く分かる。 「夢じゃないよ。動画のメッセージで家族だと思っているって言ってくれたでしょ? 同じ気持ちだって分かって僕も嬉しかったんだ」 「あ……あれ、見たんだ、ね」 「うん。メッセージカードを貰ったみんなで見たよ。静くんが目を覚ましていたら一緒に見ることになったと思うけど………」 「……恥ずか、しいな……あの時の、思いを、全て、詰め込んだ、から」 消す直前に言った本音のことは話題にできなかった。 聞かれていないと思っているだろうから、聞かなかったことにしよう。 「明日から学校に戻るけど……」 「うん、すごく、嬉しい……まずは試験、だけどね……ハル先生も、戻って来てる、とは、思わなかった」 不安よりも嬉しい気持ちが大きいようだ。 僕の心配なんて杞憂に終わればいい。 「静、なにか辛いことがあったとしても、ここに味方が2人いることを忘れないで欲しい」 「3人にして頂けますか?」 「明さん、晴臣さん、拓海さん、ありが、とう」 僅かに口角を上げて笑う静くんを見て、僕達も笑顔になる。 学校には色々な人がいる。 それは生徒も教師も変わりない。 教師の中にもいい顔をしない人もいるかもしれない。 でもこんなに明るい静くんにそのことを助言する気にはなれない。 何か起こるかもしれないが、起こらないかもしれない。 まるで占いの結果のようなことで、この表情を曇らせてしまうのは間違いだ。 静くんが寝るまで話は尽きなかった。 終始明るい静くんは作ったものではなかった。 人生は真っ平らなんてあるわけが無い。 だから心配は尽きないけれど静くんの寝顔をみて、進む道が幸せであるよう願った。 明さんも晴臣さんも同じ気持ちだろう。 静くんを見る眼差しはとことん優しいものだった。

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