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第394話.久し振り
制服は寮の部屋にある。
編入試験は授業が始まったあとの10時から開始予定なので、9時を過ぎてから寮に寄って制服に着替えてから試験会場に向かうことにしている。
試験会場は講堂の2階にある会議室を使うらしい。
空き教室を使わないのは車椅子になってしまった僕への配慮なのかは分からないが、他の生徒に会わなくていいのならそれに越したことはない。
リハビリをしてきて、まだ時間はかかるが1人で着替えることくらいは出来るようになった。
「静、行こうか」
「うん。拓海さん、晴臣さん、本当に、ありがとう、ござい、ました」
「何かあれば相談に乗るからすぐに連絡してね」
「はい、ありがとう」
晴臣さんは森さんも呼んでたみたいでそわそわしてる。
「晴臣さん、森さんにも、ありがとう、と、伝えてね」
「直接聞いたよ。すまん、遅くなった」
「森さん」
「何だ?」
手招きをしたら顔を寄せてきたので、皆には聞こえないように伝える。
「晴臣さん、たぶん、心は、決まってる、と思うよ……頑張って」
「静」
ギュッと抱き締められて森さんの背中をポンポンと叩く。
「静、着替えの時間もあるから行くぞ」
バスに乗れない僕はあの坂を車椅子で上がらなくちゃいけないんだ。
昨日まではそう気負っていたが、今乗っている車椅子は電動のもので、坂も楽に上れそうだ。
明さんに大変な思いをさせずに済みそうだけど、これ高かっただろうなぁ。
「行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
3人に見送られて、他にも看護師さんや先生にも見送られて、無事に退院した。
家には帰ることなく学校に向かう。
電車に乗る時も降りる時もまた駅員さんのお世話になって、坂は電動の力で結構スイスイと上がっていく。
すぐ後ろを歩く明さんに声をかけられた。
「静、不安はないか?」
「不安よりも、期待が、大きい、かな。敦と、誠がいる、から安心、だし」
「そうか。拓海も言ってたが、何かあればすぐに相談しなさい。敦くんや誠くん、鈴成くんやハルくんでもいい。1人で抱え込まないようにな」
大きな手で頭を撫でられた。
やっぱり明さんの手は安心する。
守衛さんの所で学生証を見せると、少し驚いたようにこちらを見てきた。
「復学されるんですね」
「はい」
「車椅子はこちらの学校指定のものに乗り換えて下さい。また外に出かける時などは、ここで乗り換えられるように、こちらで預かりますね」
明さんが自分が校内に入っても大丈夫なように手続きをするのと同時に、車椅子の手続きもしてくれた。
守衛さんの所にある時計が9時を過ぎたので寮に向かう。
車椅子の場合裏の扉から入る事になる。
第1寮の裏に回るとハル先生がいた。
「ハル先生!」
「静くん、お帰り。鈴先生は授業で来られなくて、俺でごめんね」
謝ることなんてない。すごく嬉しい。
「謝ら、ないで。嬉しい、から」
部屋の位置は変えられなかったが、車椅子専用のエレベーターが設置されているので問題ない。
生徒手帳の中にあるカードキーで部屋に入ると、まず目に飛び込んできたのは白の何か。
「え?!」
僕のベッドの上は白いものでいっぱいになっている。
僕と同じくらいの大きさがあるものからキーチャームなどの小さいものまで、うさぎのグッズで埋め尽くされていた。
「敦、誠……」
僕がいなくなってから集め出したんだろう。
その気持ちを考えるだけで涙が出そうになる。
これをそのままにしてるってことは、僕が帰って来るって信じてたって事だよね。
「静、着替えるんだろ? 時間はあまり無いぞ」
「あ、すぐ、着替えるね」
制服のシャツに腕を通すとまた嬉しい気持ちが込み上げてくる。
ネクタイを絞める。
夏服だからジャケットはいらない。
少しだけ立ち上がりズボンを穿く。
倒れないようにクローゼットに背中を付けるが、まだ片足を上げる動作は怖さもある。
なんとかズボンを穿き、車椅子に座る。
部屋を出てまたエレベーターで下に降りて裏の扉から外に出る。
講堂には9時50分には着いた。
試験監督は知らない先生だった。
勉強はまったくしてこなかったけど、なんとかなる……よね?
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