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第395話.不正行為
試験を受ける部屋に入ると、真ん中に机と椅子が1つずつ置いてあるだけだった。
カンニング防止のためなのかな……?
筆記用具以外のカバンなども試験監督の先生に渡した。
「なんなら、裸に、なりますか?」
「何を言っている?」
「カンニング、疑って、ますよね?」
真っ直ぐに見つめたらふいっと目を逸らされた。
図星だったのかな
「ここは監視カメラもあるし、私もしっかりと見させてもらう。そんな必要は無い。ただ、長袖は気になるから腕まくりをしなさい」
「分かり、ました」
腕まくりをすると、まだ消えていない傷が見えてしまうが仕方ない。
両腕とも肘の少し上まで腕まくりをして席に座った。
机の上には鉛筆が3本とシャーペンが1本。それにカバーのついていない消しゴムが2個。
問題用紙と解答用紙を渡された時にはもう10時をとっくに過ぎていた。
解答用紙に名前を書いてから全ての問題に目を通す。
解く順番を決めてから解き始める。
そういえば編入試験は難しいと来夢くんが言っていたけど、問題文を読んで納得する。
問題の8割は引っかけ問題で、残りの2割もしっかりと最後まで読まないと違う答えを導いてしまうものだった。
まったく勉強をせずに試験を受けたことで、慎重に問題文を読んだので、みっちり勉強しなくて良かったと思う。
試験科目は国数英社理の主要5科目だ。
どれも問題文をしっかりと読むことが大切で、少し疲れたが、間違う要素はどこにも無かった。
想定よりも早めに問題は解き終わる。
「あの………」
「何だ? 質問は受けられないが」
「解き終わった、ので、次の教科に……」
「はあ? こんなに早く解けるわけが……見せてみろ」
答案用紙を渡すと目を見開いてこちらを見てきた。
どうやらちゃんと解き終わったことを分かって貰えたらしく、試験時間は短縮された。
当初はお昼休み30分を含めて1教科1時間の予定だったらしく、終わりは15時半となっていた。
しかし短縮されたために、お昼なしで12時半には全てが終わっていた。
「試験結果は日曜の昼頃に寮の担当教諭から伝えられる予定だ」
「分かり、ました」
腕まくりを直して、カバンを受け取るとペンケースに鉛筆とシャーペンと消しゴムを戻して、車椅子で部屋を出る。
「静、お昼休みか?」
「ううん、終わった」
「流石だな。学食があるんだろ? 俺も食べて行こうかな」
この時間だと他の生徒とかち合うが、良いのだろうか?
先程の試験監督の先生に聞こうと部屋のドアを開けた。
「完璧ですよ。天才としか言いようがない。カンニングも一切無かったですし……」
聞こえてきたのは僕のこと?!
誰かと電話でもしているのかな?
「は? そんな捏造なんて出来る訳がない!」
捏造?
すぐ後ろにいた明さんがドアを勢いよく開けて中に入った。
僕はどうしていいか分からずにドアの所から動けない。
「また後で連絡する………何ですか? あなたは」
スマホをしまうとその先生は明さんを見て眉をしかめる。
「本島静の保護者です。捏造という言葉が聞こえてきたのですが、どういうことですか?」
「あなたには関係の無いことです」
「静の試験結果に関わることなのでは? であれば関係あると思うが?」
「明さん、聖凛の、先生が、変なことを、するなんて、思えないよ」
先生はまた僕から視線を逸らす。
本当に何かしようとしてるのかな……?
「先生の名前を教えて頂きたい」
「浅岡です。1年生の日本史担当です」
「先程の口振りでは、静の試験結果は完璧だったようですね。もしなにか改ざんをされた場合は教師人生が終わる時だと考えて下さい。私は容赦しませんから」
「あんたに何が出来ると言うんだ!」
明さんが怒りを隠さないところを久し振りに見た気がする。
「俺は大野明、大野家の現当主だ。それだけで、分かるな? 不正を働くなと言っているだけだ。試験結果はありのままでお願いするよ」
「お、大野家?! 分かりました! このまま、採点をする先生方に渡します」
そういえば監視カメラがどうとか言ってたような……
「何か、したら、監視カメラ、に、映るのでは……?」
浅岡先生はハッとした顔をしてから頭を抱えた。
「あ、鈴成くんかい? 静の試験は終わったよ。今すぐ答案用紙を取りに来てほしい。試験監督の浅岡先生は何かしようとしているから信用ならない。来るまでここで待ってるよ」
明さんは僕の答案用紙に浅岡先生を近づけないようにしてくれた。
5分もしないうちに鈴成さんもハル先生も来てくれた。
僕の答案用紙はA4サイズの茶封筒に入れられて封をされてハル先生が持って行ってくれた。
浅岡先生は顔面蒼白で鈴成さんに何か言っていたが、そのまま理事長室に行くことになったようだ。
僕は結果を待つことしか出来ないから、事の成り行きを見守った。
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