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第396話.編入試験が事件に発展?!
事情を聞きたいと僕達も理事長室に呼ばれた。
理事長室に行くのは拓海さんとの事があって以来だった。
「本島くんだったね。戻ってこられたこと、良かったよ。それなのにこんなことに巻き込んで悪かったね」
1年前とは雰囲気がまるで違う。顔は同じだと思うけど違う人みたいだ。
「いえ、編入試験、受けさせて、頂いて、ありがとう、ございます」
「浅岡先生のことだけど、不正を行おうとしていたのかな?」
喋り方についても何も言わない。
高圧的な態度も全く感じない。
「浅岡先生は、出来ないと、言って、いました。電話の、相手に、脅されて、いるように、感じました」
「浅岡先生、電話の相手が誰なのか言って下さい。その人物からも話を聞く必要がありますよ」
「………言えません」
浅岡先生は力なくそれだけ言うと口を閉じた。
明さんはそんな浅岡先生を許すつもりはないのだろう。
ジャケットを無理矢理脱がせて胸ポケットにあるスマホを取り出した。
「あ、やめっ」
浅岡先生の制止の言葉も虚しく、明さんは履歴から1番最後に通話した人に電話をかける。
『先生? 何してるの? 早くここに解答用紙を持って来てよ』
スピーカーから聞こえる声は、おそらく生徒のものだ。
どこかで聞いたことがあるような声だと思う。
『ちょっと、何で何も言わないの? あの事、バラされてもいいの?』
弱みを握る人独特のバカにするような喋り方はあまり好きではない。
急に声の主に思い当たる。
「あ、そうか……三輪くんだ」
「え?! 三輪って今学年1位の?」
前に隣のクラスとの合同授業の時、1度の説明で分からなかった人に蔑んだ目で酷評していた事を思い出す。
「お前は三輪か?」
明さんのドスの効いた声にヒュッと息を吸い込む音がする。
『そういうあんたは誰だ? 先生は?』
「お前のせいで解雇目前だよ。今すぐ理事長室まで来い。来なかったら退学も辞さないと理事長もおっしゃってる」
『………分かった』
嫌々ながらも承諾した三輪くんを待つ。
ノックをする音に理事長が応え、入って来たのは制服を着崩すことも無い眼鏡をかけた、見るからに優等生な少年だ。
浅岡先生を見て心配そうな顔をしたのは見間違いではないと思う。
「三輪くんですね。編入試験について何をしようとしていましたか?」
「本島が試験を受けると聞いて、せっかく学年1位を守ってきたのに抜かされるなんて……許されない。だから俺が解答用紙を書き直す予定だった。1年生のやり直しをしてくれれば2年生の1番は俺のままだからな」
「それは、違うよ」
僕のことはどうでもいい。
でも、敦と誠のことを全く考えていないことに腹が立つ。
「何が違う?」
「僕が、1年生に、編入したと、しても、学年1位と、2位は、敦と誠に、なるから」
「あの2人が俺よりも上だって言いたいのか? 有り得ないだろ! ふざけるなっ!」
自分が世界の中心でないとダメだなんて、なんて悲しい人なんだろう。
「それでも、僕が、必ず、そうしてみせる、から」
じっと見つめて言うと軽く睨まれる。
今までのことを考えれば三輪くんの睨みは怖く感じない。
「で? 浅岡先生のあのことって何なんだ?」
「それを言うとでも?!」
「三輪くん、人を脅すという行為は犯罪に繋がります。私も聞かない訳にはいかないですよ」
理事長の言葉に三輪くんは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「それは私が答えます」
「浅岡先生は脅されていたのでは?」
「私は三輪くんを愛しているんです。気持ちを抑えられなかった」
ドキッとする。
僕も鈴成さんのこと……大好きだ。
「俺は!」
「えぇ、私の片思いです。それでも気持ちを伝えてしまった。それが間違いだったんです」
誰も声を出せなくなった中、理事長が口を開いた。
「恋をすることが悪い事だとは思いません。それが教師と生徒であっても、ね。1人1人の人間として惹かれ合うこともあるでしょう。ただ、その気持ちを利用してはいけませんね」
「あの、本当に、そうなんです、か? 三輪くんの、浅岡先生を、見る目は、優しかった」
2人は思い合っていると僕には感じていた。
「本島は黙れよ」
三輪くんは明らかに焦ってる。
本当は恋人同士なのかな……?
「ここからは私が2人から話を聞きます。2人の今後については後で連絡しますので」
穏やかな笑みを浮かべた理事長は浅岡先生と三輪くんを残して、他の人達を出て行かせた。
「大丈夫、かな?」
心配で理事長室の扉を見つめる僕の頭を明さんと鈴成さんが撫でてくれた。
この2人の今後がどうなるかは、鈴成さんと僕の今後を占うようなものだから、気になって仕方ない。
それでも必死にその事を考えないようにした。
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