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第397話.理事長

本当なら学食でランチをして、寮の部屋に戻るはずだった。 でも、自分と鈴成さんのことを隠したままではいられない。 学食で明さんと食事をして明さんを見送った後、僕は理事長室に向かった。 ドアをノックすると『どうぞ』という声が聞こえたので中に入る。 「本島くんでしたか。どうしました?」 穏やかな微笑みを絶やさずに見つめられた。 「……あの、僕と地迫、鈴成先生は、付き合って、います………」 「えぇ、地迫先生からも聞きましたよ」 「え?!」 「おそらく後で君が来るだろうと言っていたが、本当に来るとはね」 理事長からは怒りのような感情は見受けられない。 「あの……変な質問を、しても、いいですか?」 「どうぞ」 「1年前の、理事長と、あなたは、同一人物、ですか?」 どうしても同じ人だとは思えない。 「よく分かりましたね。顔は似ていますが別人です。前にいたのは弟なんですが、誰かの上にいると自覚しないとダメなヤツなもので………本島くんもひどい言葉をかけられたのでは? 本当に申し訳なかったね」 「先程の、2人は、どうなります、か?」 気になっていたことを聞くと、眉をしかめた理事長を見て俯く。 「私は恋愛は自由だと思っています。それは教師と生徒であっても、です。でもね、あの2人は校内で身体を重ねていたようなんです。それは許せません」 それって………2人は身体の関係があったということ?! 「あなた達のことは……寮の部屋も含めて校内でそういう行為をしないと約束してもらえれば、聞かなかったことにします。校外でのことについては私の監督することではありませんので、お好きにどうぞ」 「学校で、そんなこと、出来ません……」 僕の言葉に理事長は満足そうに頷く。 「三輪くんと浅岡先生に全く何も無いということは、無いでしょう。しかし、退学も解雇も考えてはいませんよ。浅岡先生には私が持っている他の学校に異動してもらう予定です」 鈴成さんと離れる、それはあの時のことを思い出すからとても辛い。 きっと三輪くんと浅岡先生も辛いと思う。 でも2人にとってはそれがいいのかもしれない。 僕達が卒業すると、必然的に一緒にいられる時間は減ってしまうから。 それでも相手を想っていられるかは、今後のことを考えるに当たっても重要なことだと思う。 「2人は、それで、納得を?」 「せざるを得ないでしょう。三輪くんについては停学処分などもしないことになりましたから」 「そうですか……良かった」 「君のことを蹴落とそうとした人ですよ? 随分と優しいんですね」 争いは嫌いだから三輪くんとも仲良く出来るのなら、そうしたいと思っている。 「僕は、優しい、訳では、ありません。臆病なん、です。1人に、なるのは、怖くて」 「大野さんや地迫先生から事情は聞いています。そうとう辛いことがあったと……。安心して学校生活が送れるようにしましょうね」 「ありがとう、ございます」 理事長がこんなに僕達のことを考えてくれる人で、本当に良かった。 「また、いつでも来ていいよ。私も話し相手が欲しくてね」 「はい」 社交辞令だと分かっていても、少し嬉しい。 「失礼します」 車椅子に乗ったまま頭を下げる。 理事長室を出たら、鈴成さんがいた。 「鈴先生!」 「やっぱり、思った通りだった。あの2人だけが処分されるのか嫌だったんだろ?」 「分かり、ましたか………理事長が、変わった、なんて、知らなかった、から、驚き、ました」 聞けば、先生の中でも一部の人しか知らないことらしい。 「もし、処分をってなったらどうするつもりだった?」 「他の学校に、転校するか、辞めて、大検を、受けるかと、思ってました」 「その時は本島くんがここに残って俺が出て行ったよ」 顔を見たら寂しそうな表情で、僕の胸も痛くなる。 「2人ともお咎めなしで良かった。それに校外については勝手にしていいと言質もとったからね」 微笑む鈴成さんはカッコイイ。 「夏休みの旅行、楽しみにしてる」 耳元で囁かれて頬が熱くなるのを感じる。 「……僕も、楽しみ………」 鈴成さんは同じ寮に帰るのだからと、車椅子を押してくれた。 どうなることかと思ったけど、なんとか学校に戻れそうです。
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