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第401話.帰ってきた
敦は誠が帰ってくるまでずっと一緒にいてくれた。
一緒にいられなかった1年の間に敦と誠は成長したと思う。肉体的にも、精神的にも。
「敦と、誠は、人間的に、ひと回り、大きくなった、ね」
「それは、買い被りすぎだよ。それに、そう思ってもらえるのはきっと静のお陰だから」
「僕の……?」
僕は一緒にいなかったのに?
「静が帰ってきた時に、恥ずかしくないようにって思ってたから。いなくなってすぐは、オレも誠もたくさん泣いてたし、何かあると静のこと探してた………。街中で静に似た後姿の人に何度も声掛けたし、どんなに時間が経っても静がそばにいないことは慣れなかった」
敦の言葉からその時の悲しみまで伝わってきて、泣きたくなる。
こんなに僕のことを思ってくれていたのに、サファイアの影響とはいえ、みんなの事を忘れてしまった自分が許せない。
「みんなのこと、忘れて、しまって、ごめんなさい」
「ん? 静が謝ることじゃないよ。オレ達のことを覚えてないって晴臣さんと吾妻さんから聞いて、どうして?!って思った。でもな、オレはその分オレ達が静のことを覚えていればいいって、そう考えることにしたんだ」
「敦……」
頭をぽんぽんと撫でられる。
「オレも誠も、何度だって静と親友になれるって自信があったから。絶対に帰って来てくれるって信じてたし」
ニカッて笑う敦は昔のままだ。
なんだか笑顔が眩しい。
インターホンが鳴って、敦が対応してくれた。
「本島、お帰り」
「お帰り……あれ? 誠は?」
長谷くんと芹沼くんが来てくれた。
芹沼くんは部屋を見回してる。
「ただいま」
「誠なら来夢の部屋でアイス食べてるよ。でも、もう戻るかな……? そろそろ夕飯になるし」
「車椅子なんだろ? 何かあれば手伝うから、言ってくれ」
「ありがとう」
「そうそう、力仕事は全部潤一に任せちゃえばいいよな!」
「……全部かよ」
少し嫌そうに眉を顰める長谷くんと、その皺を伸ばそうとする2人が微笑ましい。
「ただいまー! あ、ヒロくんもいる。部活お疲れ様」
敦と長谷くんがいて、誠と芹沼くんがいて、そこに自分が一緒にいるってことが、感慨深い。
みんなを見ると凄く嬉しそうにしていて、僕は本当に戻って来られたんだって自覚する。
病院にいる時も戻って来たって思ったけど、今の方が実感がこもっている。
明さんや拓海さん達大人だけじゃなくて、ここにいるみんなも待っていてくれたことが、凄く嬉しい。
「本当に、待ってて、くれて、ありがとう……僕も戻って、来られて、嬉しい……また、よろしくね」
学校に戻れたことも、この部屋にまたいられることも、少し前の僕は思ってもみなかった。
「今日はいいけど、明日からまた勉強みてくれよ」
「僕も! 今やってるところ難しくて」
「俺達は日曜でもいいか?」
「無理しない範囲で大丈夫だから」
みんな目がキラキラしてる。僕の目もこんな風に戻るかな。
「うん、もちろん」
編入試験の結果は日曜に出るって聞いているけど、手応えは問題なかった。
きっと同じ教室に戻れる。
「そろそろ夕飯だから芹沼は戻らないとだな」
「あー本当に俺も第1寮に移りたいよ」
「仕方ないだろ?」
「そうだけど」
「僕はヒロくんとお外で待ち合わせるの好きだけどなぁ。どこから来るかな? ってドキドキワクワクするの!」
誠はいつでもポジティブで、すぐにネガティブになってしまう僕は見習わないとだなぁ。
芹沼くんはそんな誠をギュッと抱き締める。
2人が付き合い始めたのは最近だって聞いてる。
「誠、可愛い!」
「そう? ヒロくんもカッコイイよ!」
僕も誠みたいに素直になりたい。
出来るか分からないけど旅行の時は、自分の気持ちを素直に伝えたいな。
みんながいるこの楽しい空間で僕はそんなことを考えていた。
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