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第403話.悪夢

部屋に戻って今日のデザートのカップケーキを食べたら敦と誠はお風呂に行って長谷くんは部屋に戻った。 僕もシャワー室に向かう。 誠がお風呂用の椅子を買って置いてあると言っていたのでシャワー室の扉を開けて確認する。 想像していたよりもしっかりとしたもので、背もたれのあるタイプだった。 おそらく4人で買いに行ってくれたんだろうけど、僕の事を想ってくれている事がヒシヒシと伝わってきた。 シャワー室でその椅子に座った。倒れるんじゃないかと心配になりながら背もたれに体重をかけるが、全く問題無い。 身体も洗いやすくて、シャワーで流す時も座ったままで大丈夫だった。 これなら、これからも1人で大丈夫そうだ。 洗面所にも椅子が置かれている。 そこに座って髪の毛を乾かす。 そういえば髪の毛を切る時間が無かったから、元々長めだった髪は今では肩につくくらいまで伸びている。 この前来夢くんが来た時に髪留めのゴムをくれた。 しばらくはそれで1つに束ねるしかないかな。 明日明後日は無いけれど、来週から土日は病院に行ってリハビリをしなくてはならない。 髪を切るとしても夏休みに入ってからかな……? ベッドの端に座って運動療法士の先生からもらったプリントを見てリハビリを開始する。 あまり根詰めると逆効果になると言っていたので、今までも病院でやっていたことをおさらいする。 体が自由に動く時には全く意識することなく出来たことが、出来なくなるのはやっぱり辛い。 リハビリも勉強も毎日の積み重ねが大切だと思う。 急に出来るようになることは有り得ない。 鈴成さんとの旅行の時にはちゃんと歩けるようになって、手を繋いで歩くのが今の目標。 2人で指輪をして歩けたら嬉しいな……… 「ただいま! リハビリ? 手伝えることある?」 「もう、終わりだから。お風呂の、椅子、ありがとう。あれなら、大丈夫、だと思う」 「良かった! 敦と僕で色々と座ってみてあれにしたんだよ!」 誠は自分の事のように喜んでくれた。 僕はシャワーの前に歯磨きは済ませていたから、誠が歯磨きを済ませるまでリハビリを続けた。 誠がこちらに戻ってきたので、見ていたプリントの束をベッドのすぐ脇に置いてあるローテーブルの上に置く。 「ねぇ、静」 「ん? どうかした?」 「一緒に寝てもいい?」 パジャマ姿の誠は自分の枕を抱き締めて聞いてきた。 相変わらず誠は可愛い。 「いいよ」 「本当……?」 そう言いながら、僕のすぐ隣に寝る。 「寝言は言わないように頑張るから」 「そう?」 寝言は無意識だから頑張っても意味が無いのだけど、誠の言葉が嬉しくて頷く。 相変わらず誠の寝付きは良くて、いつの間にか寝ている。 僕も今日は疲れていたからかすぐに眠ってしまった。 突然目が覚める。 夢を見ていた気がするが何も覚えていない。 寝汗が凄いし息も絶え絶えということは、またあの時の夢を見ていたのかな。 左腕がジンジンしていたから見てみると、爪で引っ掻いた跡がある。 血は出ていないがミミズ腫れになっている。 自分を傷付けるのは止めたいが、寝ている間にする事まで制御は出来ない。 「静、帰って来てくれてありがと」 「誠?」 見ればスヤスヤ寝ているから寝言だと分かる。 「ふふふ、大好き! ずっと仲良しだよ」 ぎゅっと抱き締められる。 嬉しくて涙が出てくる。 「僕も、大好きだよ」 これから先もずっと友達としてそばにいたいと思う。 鈴成さんをはじめ、聖凛に入ってから出会った人達は、一生ものだ。 僕はみんなのお陰で強くなれるし、優しくもなれる。 「出会って、くれて、ありがとう」 誰にも聞かれていないはずの僕の言葉に、誠が嬉しそうに微笑んでいたことは、知る由もなかった。

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