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第406話.パーティーの構想

学校に戻って1番感じるのは時間の進む早さの違いだった。 病院に1人でいるのと、寮や校内でみんなといるのでは、同じはずの時の流れが今の方が早く感じる。 学校に戻って来てもう2週間になる。 夕飯の後のリハビリは日課になっていた。 「静、すごい汗。ちゃんと水飲みながらやってる?」 「誠……忘れてた」 「ダメだよ! 少し休憩して」 備え付けの冷蔵庫から水のペットボトルを持って来て渡された。 没頭していたリハビリの運動を中断して水を飲む。 気がついていなかったけど喉が渇いていたようで、半分くらい一気に飲んでしまった。 「早く歩けるようになりたいっていうのは分かるよ? でも無理して倒れたら、リハビリ出来なくなっちゃうよ」 誠の言うことはもっともで、返す言葉もない。 「ごめん」 「謝らなくていいから、もう無茶はしないって約束して」 「うん、分かった」 なんだか不思議だ。1年前は僕が誠を諭していた。 それが逆の立場になるなんて思ってもみなかった。 誠が精神的にも成長したっていう証拠だと思う。 「今日は病院でもリハビリして来たんでしょ? 先生は何て言ってたの?」 「1人でも、ちゃんとリハビリ、してるねって。まだ、すぐに疲れるけど、車椅子なしでも、歩けるようになって、きたから」 今では寮の部屋の中は車椅子無しで過ごすようにしている。 短い距離であれば問題なく歩ける。と思う。 周りから見たらまだ危なっかしいらしい。 「あっ、来週のことなんだけど、静の病院の帰りに集合して、諒平さんの家に行くのでいいの?」 「買い物は、拓海さんに、お願いするから……それで大丈夫だと、思う」 来週の日曜日は、敦の誕生日パーティーを企画してる。 本人には内緒で。 土曜日が当日だけど、家に帰って家族と過ごすらしいから、日曜日にする予定になってる。 その日のリハビリは午前中に終わるように、運動療法士の先生にお願いしてある。 そこから1度みんなで諒平さんの所に行って文化祭の話をして、明さんと拓海さんと僕の家に行く。 久々に料理を作るから少し緊張するけど、たぶん勉強と同じで覚えているだろう。 敦の家の誕生日パーティーの献立は、誠が敦のお姉さんからLINEで教えてもらうことになっている。 それを外して献立を考えるから、ちょっと大変かなぁ。 でも、楽しみだ。 頭の中で色々と何を作ろうか考えて過ごしていたら、1週間はあっという間だった。 土曜日の夜に誠のスマホには何枚かの写真が送られてきた。 家族全員の集合写真。 お姉さんは美人だし、弟くんは可愛い。 ご両親も優しそうだ。昔あんなことがあったとは思えない程幸せそうな写真で、正直羨ましい。 僕には家族3人で写っている写真は1枚しかなくて、もう増えることはないから。 「敦、嬉しそうだね」 「うんうん、いつもは大人っぽいって思うけど、家族の中に入ると……やっぱり子供だね」 料理の写真を見ると、どうやら手巻き寿司パーティーの様だ。他に筑前煮ときんぴらごぼうとポテトサラダがある。 これならどのバージョンにしても大丈夫そうだ。 唐揚げは外せないよね。ご飯はオムライスにするか。 スープは、暑くなってきたしビシソワーズにしようかな。 そうするとサラダはかぼちゃのサラダにして………。 「誠は何が食べたい? これは作るけど」 メモ用紙を誠に見せる。 「すごいね! 美味しそう! オムライス食べたかったの。唐揚げもあるんだ! これにケーキでお腹いっぱいになると思うよ……?」 「そうかな。何かあと1品作ろうかと思ったけど、これでいいかな?」 「僕はいいと思う。人数って何人になるの?」 そうだった。それを考えなきゃいけなかったんだ。 「敦、誠、長谷くん、芹沼くん、ハル先生、鈴先生、来夢くん、明さん、拓海さん、僕だから、丁度10人だね」 10人分の料理か。 頑張ろう!

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