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第409話.もう1人の親
「服着たままだと駄目?」
「メイド服でしょ? スーツならワイシャツの上からだから着てていいけど、ブラウスも作るから……やっぱり駄目ね」
腕の傷はあまり見られたくないけど、仕方ないか………
僕は着ていたものを脱ぐ。ズボンも脱いで下着だけになった。
「まだ前より細いわね。体重は少しは戻ったの?」
「食事はもう昔と、同じ位の量に戻ったよ。体重は……あと5kg位かな……? 先生からは元の体重よりも、太るように言われてるんだ」
また運動が出来ないかと思うと、太るのは怖い。
「それと、腕の傷は新しく見えるわね」
諒平さんはずっと使っているのか、しなやかなメジャーを使って、採寸をしては紙に数値を書き込んでいく。
「これから少し太ることを考えて余裕があるように作るわね。最後に身体にぴったりになるように調整するわ」
思ったよりも採寸に時間はかからなかった。
たぶん諒平さんが手慣れているということが全てだと思う。
「諒平さん、心配かけてごめんなさい」
「いいのよ。私達は心配するのも楽しみなんだから」
「え?」
諒平さんを見るといつも明さんや拓海さんが僕を見るのと同じ目をしている。
「子供の成長を見守るのは大人の仕事なの。静ちゃんが苦しんでるのは分かっているわ。ただ、それを1人で抱え込まないで……? 周りにいるみんな味方だから。何でもぶつけて良いのよ」
「ありがとう。僕は幸せ者だね」
胸がほわんと温かくなる。
今までの事を考えると、こうなると僕はほんの少しだけど笑っているんだと思う。
「……っ………静ちゃんっ!」
ギュッと抱き締められて、それからわしゃわしゃと頭を撫でられた。
髪留めのゴムを1度とる。
「あら、その長さ丁度いいわね。出来たら髪の毛を切るのは文化祭後にして欲しいわ。そうすれば静ちゃん分のウィッグを用意する必要が無くなるし」
きちんと歩けるようになって時間ができたら切りに行こうと思っていたけど、諒平さんからそう言われて、それを断ってまで髪の毛を切る訳にはいかない。
「分かった。そうするね」
「当日は可愛い髪型にしましょうね〜」
諒平さんが楽しそうだ。
「あっ! パーティーの準備があるのよね。採寸はもう大丈夫だから早く行きなさい」
「ありがとう。諒平さんも今度一緒に、ご飯食べようね」
手を振ると「絶対よ!」と笑顔で言われた。
「次は誠ちゃんだから」
「はい」
手摺りにしっかりと掴まってゆっくりと下の階に下りる。
「あ、静終わったんだ」
「うん。次は誠だって」
「はーい」
誠が2階に上がるのを見送ってから、明さんと2人で出発する。
「じゃあ、後でね」
「ああ。気をつけてな」
「敦、ありがと」
バイバイと手を振ってから風間邸を後にする。
「電動車椅子だから、1人でも大丈夫、だったよ?」
「変な奴に絡まれたら大変だろ?」
相変わらず明さんは心配症だ。
でも確かにスピードが出過ぎないようになっているから、逃げるのは無理だと思う。
「心配ばかりかけてごめんね」
「気にするな」
「そういえば、雨音さんの所にいた、ライダースーツの人は、知り合いだったの?」
背の高そうな人を思い出すと、その向かいに座っていた笑顔の可愛い人も一緒に思い出す。
「あの人はよく行くBARのマスターだよ」
「話しやすそうな人、だったね」
「お酒も入ると何でも話してしまうんだ」
苦笑する明さんは、たぶん話すつもりがない事まで話してるんだろうなぁ
「静のことも可愛い甥がいるって自慢した記憶があるよ」
「え? 恥ずかしいよ」
「拓海のことも話した気がするが、どんな話をしたか覚えてないんだよ」
惚気けたんだろうなぁ。
それは僕も聞きたいな。もしも明さんが一緒じゃない時に会ったら聞いてみようかな………
そんな話しをしていたら久々の家に着いた。
それはあの日出ていった時と何も変わっていなかった。
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