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第415話.心を溶かす優しさ
「何でそんなことを?」
「さっき、鈴成さんと拓海さんが、話してるのを、聞いて……距離を置くって、そういうことだと………」
鈴成さんの僕を抱き締める腕に力が入るのが分かる。
「僕は汚いから……捨てられて当然、でしょう?」
何度も何度も夢に見る。嫌なはずなのに喜んでいるようで訳が分からない。
起きた時の罪悪感と絶望は何度味わっても、変わらない。
腕から傷が消える時が来るとは思えなかった。
「何度も言うけど、静は綺麗だよ。それと捨てるなんてありえない」
綺麗だなんて……それこそありえない。
「学校や寮では教師と生徒として接するけど、俺が静を想う気持ちは変わらないから」
「鈴成さん……」
どうしてこんなに愛情を注いでくれるんだろう。
嬉しくて涙が出そうになる。
「……大好きだよ」
頭にキスをされた。
胸に埋めていた顔を離し、そのまま見上げる。
目尻に溜まった涙を舐め取られる。
どこまでも優しい鈴成さんの行動は、僕の心を溶かしていく。
「僕も、大好き……」
手を伸ばして鈴成さんの唇を触る。
思っていたよりも柔らかい。
両手で頬を包むようにしてから、僕から触れるだけのキスをした。
少しでも動いたらまた唇が付きそうな、そんな距離で目を開けるとパチっと目が合う。
急に恥ずかしくなって、ポスっとまた胸に顔を埋める。
「可愛い」
声だけでも嬉しそうに微笑んでいるのが分かる。
「無理はしなくていいから。俺はいつまでも待てるよ」
全く無理はしてない……けど、今はその言葉に甘えよう。
「ありがと」
「そろそろ俺達も寮に帰るか」
頭をポンポンとされてから鈴成さんが離れていく。
本当はもっとギュってしていて欲しかったけど、その気持ちはしまい込む。
「そうですね」
2人で明さんと拓海さんに挨拶をしてから家を出る。
あの時は絶望しかなかった。
今は希望に溢れている。
夏休みはまたここで過ごすことになる。
すぐに帰ってこられることが、本当に嬉しい。
両親と暮らしていた家よりも、この家の方が今では実家だと思える。
鈴成さんとの旅行の前に敦と誠と3人で、お泊まり会をしたいな。
あ……来夢くんも一緒に4人がいいな。
明さん達が全力で動いているんだから、絶対に助けられる。
後は期末テストでみんなでいい成績を残して、楽しい夏休みを想像出来るようにしたいな。
寮に戻ると部屋には敦がいた。
「静、おかえり。なぁ、オレ、どうしよう?!」
「ただいま。敦?」
敦は顔を真っ赤にして、僕のベッドに腰かけている。
手に持ったものを見て納得する。
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