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第417話.妄想
家から病院までは1時間半くらいかかる。途中で何かあるといけないから少し早めに家を出よう。
「敦、またいつでも帰ってきていいのよ」
「何かあったら頼りなさい」
「母さんも父さんもありがとう。また夏休みに戻って来るから、すぐだよ」
2人に抱き締められて頭を撫でられた。
親からの無償の愛情はまだ慣れない。
それでも、それぞれ腕を回してギュッとこちらからも抱きしめる。
ずっと親はもっと大きいって思っていた。
でも、抱き締め返した感じではそこまで大きくない。
あ、そうか。比べる対象が潤一なのがいけないんだ。アレと比べたら全員小さくなってしまう。
心の中で苦笑して、それから家を出た。
ようやくここはオレが帰ってくる場所だ、と思えるようになってきたと感じた。
今日はみんなで諒平さんの所で採寸をする。
文化祭でメイド&執事喫茶って本当に何を考えてるんだよ……。
野口と水原の2人は絶対に許さねぇ。
でも、静と誠のメイド服姿はヤバいよな……。
2人並ばせて写真を!
向かい合って座って、両手を握り合って、スカートふわんってなって、上目遣い………想像だけで鼻血が出そうになるくらい可愛いな………
そんな写真を撮ってずっと眺めていたい。
オレは変態かよ!
思っていた通り早めに着いて、待ち合わせ場所でそんな妄想をしていたらあっという間に時間が経っていた。
「あつしーー!」
声がした方を見ると誠が大きく手を振っていた。
小さめに手を振り返すと、少しムッとした顔をする。
誠の感情表現は小学生みたいだ。
中学の時はずっとそれが羨ましかった。
今でも誠のお陰で静もオレも自然に笑える気がしている。
天真爛漫で天然記念物のような誠はきっとオレ達に必要なんだ。
「やっぱり敦は早めに着いてると思ってた。いつもそうだもんね」
「誠がいつもギリギリなんだよ」
「待たせてごめん」
「潤一が謝ることか? 言うほど待ってないから気にすんなよ」
急に潤一に頭を撫でられて見上げる。
「何?」
「家、楽しかったみたいで良かった」
こうやって見透かすんだよな………。
潤一はいつもオレのことを見ていてくれる。
「あー、そうだな。ようやくあの家が帰る場所だって思えるようになったよ」
姉ちゃんに潤一に会わせろって言われた事は後で寮に帰ってからでいいよな………?
「ここで待ってればいいのかな?」
「ハル先生の私服、可愛いですね!」
「え? そうかな。ありがとう」
特に帽子が似合ってる。帽子って難しいんだよなぁ。
「拓海さんからLINEがあって、会計の所にいるみたいなので行きましょうか」
ぞろぞろと歩く最後尾に来夢がいる。少し寂しそうだ。
「来夢、お前も何か作ってもらうのか?」
「え? いえ、CLASSYのデザイナーさんに会える機会なんて無いだろうから、頼み込んじゃいました」
「お前もメイド服作ってもらえよ。で、静と誠と3人の写真を撮ろう!」
「はい? 敦先輩?!」
「元気出せよ。楽しむ事がある時は全力で楽しまないと損だぞ」
来夢の頭を撫でると、ポカンとした顔から笑顔に変わった。
「そうですね! ありがとうございます! 行きましょう」
来夢に手を引かれて前を追った。
会計前に車椅子の静と明さんと拓海さんがいた。
「………良かった。諒平さんには頼んであるからね」
「何を頼んだんだ?」
拓海さんが静に話しているのを聞いて、気になって聞いてみた。
「敦。僕はあまり長い時間立っていられないし、1番に採寸してもらって、家に荷物を取りに行こうかと思って」
「それなら、今夜はみんなでうちで夕飯にしたらどうだ? 俺も久しぶりに静のご飯が食べたい」
明さんの提案に1も2もなく乗っかる。
「オレも食べたい!」
「え? 静の手料理? 僕も食べたい!」
誠も同じ気持ちだよな?
1度だけ食べたあの料理は本当に美味しくて、忘れられない。
「でも買い物とか大変だろ?」
「明さんがいるし、車椅子は持ち手に、荷物を掛けられるから、大丈夫だよ」
あぁ、なるほどね。
確かに明さんが一緒なら問題ないか。
オレはみんなの計画に全く気が付いてなかった。
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