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第420話.サプライズ

採寸が全員終わったらもう夕方になっていた。 メイド服の4人はデザインと色を諒平さんに伝えて、みんなで静と明さんの待つ家に向かった。 いつ見ても大きな家に、誠が我先にと入って行く。 オレもそのすぐ後を追った。 「うわぁ! 凄くいい匂いがする! 僕もうお腹ペコペコなの」 「静は相変わらずそのエプロンなのな。マジで可愛い」 「手は洗ってきたの? まだなら荷物を置いて、手を洗ってきてね」 静は母親の形見のふりふりのエプロンを着けている。 言葉までまるで母親のようだ。 「「本島?!」」 潤一と芹沼の驚いたような声に振り向くと、2人とも口をポカンと開けている状態で固まっていた。 「いらっしゃい。あ、これ? このエプロンは母さんの、形見みたいなもので、着ないと勿体ないから」 「そういう事なんだ! 俺も驚いたよ。でもよく似合ってる。静くん可愛い」 ハル先生も潤一達の後ろから来て、事情が分かるとニコッと笑う。 「ほら、荷物を置いたら手を洗いに行くよ」 拓海さんの声に荷物を置いて洗面所にと思ったが、潤一が動かない。 「おい潤一、何で固まってる? 静の可愛さにやられたか?」 「いや、あのエプロンを着た敦を想像したら、ヤバくて」 すごくだらしない顔をしているのを見て、ちょっと嬉しくなる。 「バカっ、行くよ」 素直にそんなことは言えないから、悪態をついて潤一の手首を持って洗面所に向かった。 「席はどうするの?」 「お酒を飲むか飲まないかで別れた方がいいかな……ハルくんは今日はお酒飲む?」 「あー、今日はやめておきます。明日も授業がありますから」 どこに誰が座るかでみんなが悩んでいる。 オレは空いてるところに座ればいいよな。 「明さん、僕の方から机持ってくれば、みんなで食べれる、よね」 「そうだな、持ってくるか。誰か手伝ってくれるか?」 「俺が行きます」 潤一が手を上げて明さんと隣に向かった。 静の料理は1年前と変わらずに美味しそうだ。 対面型のキッチンで料理を続ける静は、なんだか楽しそうに見える。 「なんか、豪華だな………」 「そりゃそうだよ、ね? 静!」 「ん? どういう事だ?」 豪華なのは決まっていたことなのか? 「とにかく座って。スープとサラダと唐揚げは、これで出来上がりだから。ご飯はオムライスだけど、始めからあった方がいい?」 「オムライス……?!」 鈴先生が驚いたような声を上げた。 気になってそっちを向こうとしたら誠の声に、それはかき消される。 「やったー! オムライス、ずっと食べたかったの」 「オレも食べたいって言ってたの覚えててくれたのか?」 「あの時は和食だった、からね。その後、何度か食べたいって、2人共言ってたから」 オレ達は始めからオムライスがあった方がいいって言ったけど、その前に乾杯をしようということになった。 「乾杯は静くんにしてもらおうかな」 「え?! 僕?」 「うん。元々静くんの発案でしょ?」 拓海さんは微笑んで頷いた。 「では、僕が。1日遅れになっちゃったけど、敦、誕生日おめでとう! これからは毎年、一緒に祝おうね」 「「敦(佐々木くん)おめでとう!!!」」 「え……えぇ? これって、そういう? すっげー嬉しい! みなさん、ありがとうございます!」 うわぁオレ、泣きそうだ。でも嬉しくて嬉しくて笑顔になる。 オムライスはトロトロのオムレツをみんなの目の前で切って、デミグラスソースをかけて出来上がりだって言われた。 オムライスを初めて食べたのは静がいなくなってからで、手作りのものを食べるのはこれが初めてだ。 出来上がったオムライスはすごく美味しそうだ。 「いただきます……ん、んんん? ……すっげー美味い!」 「僕もいただきまふ、ん………卵がトロトロだね!」 美味しいものを食べると自然と笑顔になる。 サラダもスープも、唐揚げも小鉢に入ったキノコとベーコンのバター醤油も……本当に美味い。 潤一と芹沼が二人揃って『母さんのより美味い』と言っているのを聞いて、オレは静から料理も教わろうと決めた。 「静先輩って勉強だけじゃなくて、料理まで完璧なんですね。凄いなぁ」 「完璧とか、そんなことはないよ。両親が死んでから、必要にかられて、作るようになった、だけだから。でもありがとう。嬉しいよ」 オレも自分で作ろうってすればまた変わったのかな……いや、母さんがオレに火を使わせてくれる訳なかったよな。 オレと静では環境が違うもんな。 こんなに大勢でご飯を食べるのはまだ少し緊張する。 学校で同年代だけなら慣れたけど、大人がたくさんいるのはまだ慣れない。 だけど、こんなに美味しいご飯を大好きな人達と食べられるのは本当に幸せだ。 お酒が入っても殴るような人もいないと分かっていれば、変な緊張もない。
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