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第421話.何気ない一言
「ケーキはレアチーズケーキにしたんだけど、飲み物はどうする?」
「オレはアイスティーがいいな」
「僕も!」
コーヒーはまだ早い。何度か飲んだことがあるけど、苦くて美味しいとは思えなかった。
「俺はアイスコーヒーな」
明さんはコーヒーが似合う!
みんなでHappy Birthdayを歌ってくれて、ケーキに刺さった数字のロウソクを吹き消す。
昨日も思ったけど、こんなふうに誕生日は祝って貰えるものなんだなぁ。
『おめでとう』と言われるだけでも特別だって思えるのに、一緒にテーブルを囲んで食事をして他愛もない話をして………。
今まで縁がなかったから余計に嬉しい。
「なぁなぁ、夏休みにみんなでどこかに行かないか? 遊園地とかさ。オレ行ったことがなくて」
だから自分のことしか考えてない、最低な発言をしてしまった。
静が来夢のことをバって見て、ようやく自分の失言に気がつく。
「あの、僕は無理なので、気にせずみなさんで行ってきて下さい!」
来夢は笑おうとして、それが上手くいってない。
「あ、オレ……浮かれ過ぎてた。来夢、ごめん」
「大丈夫です。もう覚悟は出来てますから」
静が来夢のすぐそばまで行くと、抱き締めた。
「しずか……せんぱい……?」
「少し2人だけで、話そうか」
来夢は小さく頷いて椅子から立ち上がった。
「静くん、僕も行こうか?」
「拓海さん、ありがとう。でも大丈夫。すぐ戻るね」
2人がいなくなると、オレは頭を抱えた。
「オレ、バカだ。こんなふうに誕生日を祝ってもらうの初めてで、自分の事しか考えてなかった」
「敦くん……。誕生日はそういうものだよ。気にしないの」
「でも!」
拓海さんの言葉に反論しようとしたら、明さんに手招きされた。
「敦くん、ちょっとこっちにいいかな?」
「あ、はい」
書斎に入るとドアが閉められた。
「明さん?」
「これは、誠くんや長谷くん達には内緒にして欲しいんだが、出来るかな?」
「はい、それは大丈夫ですけど……」
明さんが凄く真剣な顔をしているから、何か良くないことでも言われるのかと思って身構える。
「来夢くんのことなんだけど、あの子のことは助ける為に俺と晴臣と一樹が動いているから」
「え?! じゃあ、変態オヤジの所には行かなくて大丈夫になりそうなんですか???」
「時間的にギリギリでね。でも、必ず間に合わせるから」
良くないことでは無かった。
「お願いします! そういえば一樹って誰です?」
「ん? 吾妻のことだよ。そうか、静が吾妻って呼んでるからな」
そっか。そういえば静が吾妻さんはお世話係をしてたって言ってたな。
「それと、これは俺と拓海からのプレゼントだ」
箱を渡された。
「プレゼント?! 開けてもいいですか?」
「ん、いいよ」
開けたらブレスレットが入ってた。シンプルだけど素敵だ。
「ブレスレットですね」
「いや、これはアンクレットだよ。敦くんは足が綺麗だから、映えるかと思ってね。気が向いた時にでも着けてくれ」
「アンクレットって足首に着けるのですか……」
よく見たらブレスレットにしては大きかった。
幅広だけど、重たそうには見えない。
今度これに合うサンダルを買いに行こうかな。
「すごく嬉しいです! ありがとうございます!」
書斎からリビングダイニングに戻ったらみんなの視線が集まる。
「あっ! プレゼントもらったの? 僕からは寮に戻ったらね」
「用意してくれたのか? ありがとな」
「敦、俺からもあるから。後で部屋で渡すな」
「潤一も?! 嬉しい! ありがとな」
満面の笑みを浮かべる誠とは対照的に緊張したような潤一の顔………
その理由はプレゼントを渡される時に判明した。
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