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第422話.プレゼント
静と来夢が戻って来たけど、静は小さく首を振った。
来夢の闇もきっと深い。家族とのこともあるし、来夢自身のこともあるのだろう。
家族に愛されてないと感じるのはオレにも分かる。
自分はいらない子で、どうしてこの家に生まれてきてしまったのかって悩む。
でもその答えはどこにも無くて……この世からいなくなれたらどんなに楽だろうって思ってた。
自殺を考えたこともあった。
今となればそれを実行しなくて良かったと思っている。
大切な人と出会えたから。
誠も静も鈴先生も拓海さんも明さんもハル先生も芹沼も……潤一も。
潤一に恋をして……告白されて………エロいことして。
これからもずっと一緒にいられたらって思ってる。
今日諒平さんに言われたことを思い出した。
『敦ちゃんはもっと背が高くなると思うわよ。肩幅も結構あるから、がっしりとした体型になるかもしれないわね』
可愛いからかけ離れたら、別れることになるよな。
今からその覚悟をしておかないと、いざその時になって泣いて縋るなんてしたくない。
なんとなく潤一のことを見たらパチっと目が合った。
嬉しそうに笑う潤一が眩しい。
変な事ばかり考えていたから、上手く笑い返せなかった。
自分以外の誰かが一緒にいることを考えるだけで、胸が締め付けられるように痛くなって泣きたくなる。
こんなに弱い自分が嫌になる。でも自分に自信なんて持てない。
静と明さんが書斎から戻ると、静のそばに行く。
「静、そろそろ帰る時間だけど」
「うん。鈴先生に、話したいことがあるって、言われてて………」
「じゃあ、先に帰ってるよ。今日はご馳走様! やっぱり静の作ったご飯凄く美味しかったよ」
「良かった。また後で」
ハル先生と一緒に寮に戻ることになって、静が見送ってくれた。
寮に戻るまではいつもの自分でいられたと思う。
「今日は楽しかったね。期末試験が近いけど、息抜きは必要だもんね」
「そうだな」
「あ、僕からのプレゼントは静も一緒がいいから、後で僕達の部屋に来てよ」
「分かった」
誠と話していたら潤一は先に部屋に戻ってしまったらしい。
部屋に戻ると潤一はベッドに腰かけていた。
「敦、誕生日おめでとう」
立ち上がって俺の目の前でそう言うと、抱き締められた。
「うん。ありがと」
「で、俺からのプレゼントなんだけど、これ、もらってくれるか?」
ベッドの上に置いてあった小さな箱を渡される。
「……これって!」
「あぁ、1番安いやつで悪いが、今の俺の精一杯だ」
CLASSY Jewelry の箱。
恋する乙女が欲しがるものNO.1だ。
「あのさ、今日諒平さんから、オレはもっと背も伸びるだろうし、体つきももっとがっしりするって言われたんだ」
「ん? それがどうかしたのか?」
「え? 嫌だろ? 可愛いとは言えなくなったオレなんて……いらないだろ?」
潤一が溜め息をつくのが分かる。
「敦は俺の本気を分かってないよな。敦が俺と同じような体格になったとしても、俺よりでかくなったとしても、今と変わらずに好きだよ。この気持ちが変わるなんて有り得ない」
1度渡された箱を潤一がもう1度手にする。
箱を開けて中身を取り出したら左手を握られた。
それはサイズもピッタリでオレの薬指に光る。
「ずっと一緒にいたい。卒業しても就職しても。いつかもっとちゃんとしたものを贈るから、それまではこれで我慢してくれるか?」
「……じゅん…いちぃ……本当に、オレでいいのか?」
「で、じゃないよ。敦が、いいんだ。敦が俺でいいって言ってくれるなら……」
「オレだって、潤一がいい! 潤一じゃなきゃ嫌だ」
ギュッと抱き着くと抱き締め返される。
少し離れてお互いに見つめ合う。
どちらからともなく目を閉じて、キスをした。
今までで1番甘くて蕩けそうなキスだった。
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