426 / 489

第422話.プレゼント

静と来夢が戻って来たけど、静は小さく首を振った。 来夢の闇もきっと深い。家族とのこともあるし、来夢自身のこともあるのだろう。 家族に愛されてないと感じるのはオレにも分かる。 自分はいらない子で、どうしてこの家に生まれてきてしまったのかって悩む。 でもその答えはどこにも無くて……この世からいなくなれたらどんなに楽だろうって思ってた。 自殺を考えたこともあった。 今となればそれを実行しなくて良かったと思っている。 大切な人と出会えたから。 誠も静も鈴先生も拓海さんも明さんもハル先生も芹沼も……潤一も。 潤一に恋をして……告白されて………エロいことして。 これからもずっと一緒にいられたらって思ってる。 今日諒平さんに言われたことを思い出した。 『敦ちゃんはもっと背が高くなると思うわよ。肩幅も結構あるから、がっしりとした体型になるかもしれないわね』 可愛いからかけ離れたら、別れることになるよな。 今からその覚悟をしておかないと、いざその時になって泣いて縋るなんてしたくない。 なんとなく潤一のことを見たらパチっと目が合った。 嬉しそうに笑う潤一が眩しい。 変な事ばかり考えていたから、上手く笑い返せなかった。 自分以外の誰かが一緒にいることを考えるだけで、胸が締め付けられるように痛くなって泣きたくなる。 こんなに弱い自分が嫌になる。でも自分に自信なんて持てない。 静と明さんが書斎から戻ると、静のそばに行く。 「静、そろそろ帰る時間だけど」 「うん。鈴先生に、話したいことがあるって、言われてて………」 「じゃあ、先に帰ってるよ。今日はご馳走様! やっぱり静の作ったご飯凄く美味しかったよ」 「良かった。また後で」 ハル先生と一緒に寮に戻ることになって、静が見送ってくれた。 寮に戻るまではいつもの自分でいられたと思う。 「今日は楽しかったね。期末試験が近いけど、息抜きは必要だもんね」 「そうだな」 「あ、僕からのプレゼントは静も一緒がいいから、後で僕達の部屋に来てよ」 「分かった」 誠と話していたら潤一は先に部屋に戻ってしまったらしい。 部屋に戻ると潤一はベッドに腰かけていた。 「敦、誕生日おめでとう」 立ち上がって俺の目の前でそう言うと、抱き締められた。 「うん。ありがと」 「で、俺からのプレゼントなんだけど、これ、もらってくれるか?」 ベッドの上に置いてあった小さな箱を渡される。 「……これって!」 「あぁ、1番安いやつで悪いが、今の俺の精一杯だ」 CLASSY Jewelry の箱。 恋する乙女が欲しがるものNO.1だ。 「あのさ、今日諒平さんから、オレはもっと背も伸びるだろうし、体つきももっとがっしりするって言われたんだ」 「ん? それがどうかしたのか?」 「え? 嫌だろ? 可愛いとは言えなくなったオレなんて……いらないだろ?」 潤一が溜め息をつくのが分かる。 「敦は俺の本気を分かってないよな。敦が俺と同じような体格になったとしても、俺よりでかくなったとしても、今と変わらずに好きだよ。この気持ちが変わるなんて有り得ない」 1度渡された箱を潤一がもう1度手にする。 箱を開けて中身を取り出したら左手を握られた。 それはサイズもピッタリでオレの薬指に光る。 「ずっと一緒にいたい。卒業しても就職しても。いつかもっとちゃんとしたものを贈るから、それまではこれで我慢してくれるか?」 「……じゅん…いちぃ……本当に、オレでいいのか?」 「で、じゃないよ。敦が、いいんだ。敦が俺でいいって言ってくれるなら……」 「オレだって、潤一がいい! 潤一じゃなきゃ嫌だ」 ギュッと抱き着くと抱き締め返される。 少し離れてお互いに見つめ合う。 どちらからともなく目を閉じて、キスをした。 今までで1番甘くて蕩けそうなキスだった。

ともだちにシェアしよう!