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第425話.期末試験
敦の誕生日会が終わって、期末試験に向けての勉強も最終段階に入っていた。
部活動も活動禁止期間に突入して、放課後や夕飯の後の勉強に長谷くん、芹沼くんも加わった。
来夢くんも勉強をしている間は嫌なことも忘れられるようで、どんどんと吸収していく。
「静先輩、ここなんですけど……」
「どこ? あ、ここは……こう考えてみて」
「あっ……ということは………こう、ですか?」
「うん。合ってるよ」
来夢くんは基礎がしっかりと出来ていたので、応用問題への対応の仕方を教えただけだった。
それだけで、僕の作った問題もスラスラと解ける状態までレベルアップした。
問題点はひとつだけ。
来夢くんはすぐに緊張してしまう体質らしく、いつも実力の半分くらいしか発揮できないようだ。
第1寮のみんなに頼んで、本番を想定して何度か模擬テストをしてみた。
緊張のほぐし方を何個か話してみたが、そういうことではない事がわかった。
来夢くんの緊張はテストを受けるというストレスからではなく、話したこともない人が周りにいるというのが駄目なのだ。
テスト問題に集中出来れば、間違いなく学年1位になるはず。
「来夢くんには、これをあげる」
「え? シャーペンですか?」
「そう。僕がここの入試の時に、使ったシャーペン」
「全教科満点の時の?!」
誠が勉強の手を止めてこちらを覗き込む。
「オレも気になるけど、これ解いてからにする」
敦は問題に集中する。
こういう所で2人の性格が出る。
「普通のシャーペンだけど、持ってると問題に、集中出来るから」
「あの……」
「周りが、気にならなくなるよ。使わなくてもいいから、持っていて」
「ありがとうございます……!」
また寮の人達に協力してもらって模擬テストをしてみた。
1度も話したことのない人達に来夢君の周りに座ってもらった。
シャーペンの効果なのかは分からないが、来夢くんはしっかりと問題に集中出来たようで、初めて満点をとった。
このまま本番も上手くいくと良いのだけど…………
期末試験は3日間かけて行われる。
試験の結果が悪かったら、夏休みの1部は補講に宛てがわれることになる。
具体的にいうと、学年順位でそれぞれの教科で下から20番以内に入ると、補講対象に選ばれてしまう。
補講に出ない=退学を意味する為、みんな頑張って勉強をしている。
期末試験の全日程が終わって、答えを書き込んだ問題用紙を持って、僕の部屋にみんなが集合した。
「静先輩! あのシャーペンのお陰で問題に集中出来ました。あんなにリラックスして試験に臨めたのは初めてです。ありがとうございました」
「来夢くんが実力を、発揮出来たのなら、本当に良かったよ」
答え合わせをする。
僕以外に全教科満点はいないものの、全員補講になることは無いだろう。
「来夢くんは全部で5問間違えだったよ。国語の現代文は満点だった」
「本当ですか?! こんなに間違えが少ないの初めてです」
やっぱり来夢くんはやれば出来る子だ。
「敦は3問間違え。こことここは……分かる? それと、ここ」
「あ、この2つは過程か……最後のは適当に書いたんだよ。これが模範解答? あっそうか! 悔しい!」
敦は自分で間違えを見つけたようだ。
「誠は6問間違えだったよ。全部応用問題だったから、基礎はしっかり、出来てるね。すごく成長してる」
「敦の倍も間違えたんだ! むー。絶対に卒業までには抜くんだから!」
誠は模範解答とにらめっこをする。
「長谷くんと芹沼くんは、補講になることは、ないと思うよ。夏休み前までに、プリントを作っておくから、ちゃんと復習してね」
みんなの問題用紙を返すと、全員がホッと息をつく。
「終わったな! よし、静のリハビリはいつなんだ?」
「試験休みは、明後日行く予定だよ」
「じゃあ、買い物は明日だな! 来夢、よろしくな」
「はい。可愛い服を探しに行きましょう」
そうだった。鈴成さんとの旅行のために服を買いに行くんだった………
女装をやめる……のは無理だろうなぁ
敦と誠と来夢くんが楽しそうに話しているのを見る。
来夢くんの笑顔が続きますように………
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