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第426話.買い物

「なぁ、俺達も一緒にって……ついて来たは良いけど、浮いてるよな」 「学校内と同じで用心棒に徹すればいいだろ」 長谷くんが車椅子を押してくれている。 学校から最寄りの駅までは電動で問題なかったけど、繁華街では人とぶつかるリスクが高いからって、敦が長谷くんに命令した。 「ごめんね……付き合わせちゃって」 「え? いや、本島のせいじゃないだろ。大体敦も有栖川も俺達のことは荷物持ちくらいにしか思ってなさそうだし」 「誠はみんなで出掛けられるって、喜んでたもんね」 昨日の夜も早く明日になって欲しいからって、いつもよりも早く寝てしまった。 「本島は嬉しくないのか?」 「みんなと出掛けられるのは、嬉しいけど……買うものがね………」 前を歩いていた3人が立ち止まったのは、どこからどう見ても女の子が買いに来るお店だった。 「え?! ここ?」 「そうです。ほら、入りますよ!」 「潤一と芹沼は外で待ってるだろ? 静、歩いて行くか?たぶん車椅子のままでも大丈夫だと思うけど」 敦はやっぱり優しい。 「歩いて行くよ。心配してくれて、ありがとう」 来夢くんと誠は先にお店に入っていたので、敦と2人で追いかける。 「先輩、遅いですよ」 「来夢くんのお友達はみんな可愛いわね」 小柄で笑顔の綺麗なお姉さんが笑いかけてきた。 「あなたは綺麗な足ね! これと、これ着てみて」 「え? あの、オレは付き添いで………」 敦の言葉は無視され、いつもよりも短めのパンツを渡された。 その状態で試着室に連れていかれた。 女の人の勢いが怖い。 着替えて出て来た敦は今までよりも足が長く見えて、しかも似合っていた。 「なんかしっくりきた」 「やっぱり、この方が良いでしょ?」 「敦先輩、凄く似合ってます! 里崎さん、今日はこちらの静先輩の服を一緒に選んで欲しいんです」 「あなたが恋人との旅行で女装したいって子なの? 似合う! 間違いなく似合うわね」 「あの、それはないと思います………」 里崎さんって方は僕の声が聞こえなかったのか、店舗内をぐるっと1周して戻って来ると手にした服を僕に渡した。 「まずはこれ。白のワンピースね。確か腕を出したくないのよね? 上に羽織るジャケットも持ってきたわ。それと、この白シャツにこのスカート」 女の子が着ないと可愛くならないだろうと思う服を渡されて、どうすればいいのか分からなくなる。 「取り敢えず、ワンピースを着てみて。ファスナーも脇にあるから着やすいと思うから」 真っ白なワンピースの裾はレースになっていて可愛らしい。袖がほんの少ししかないからパステルカラーの水色のジャケットも一緒に持って、試着室に入る。 着ない訳にはいかないから、変でも仕方ないと思って思い切って着てみる。 サイズはピッタリで目の前にある鏡には、どこぞのお嬢様かと思うような自分が映っていた。 ジャケットを羽織れば腕の傷も分からなくなる。 スカートは初体験で、スースーする。 試着室を出たらみんなの視線が集まるのが分かる。 恥ずかしい。 「思った以上に似合ってます! 静先輩、可愛い!!!」 「すごいクオリティだな……どこからどう見ても深窓の令嬢だ」 1番うるさくなりそうな誠が何も言ってこない。 「誠……?」 「可愛い……すごくすっごく可愛い!!! 取り敢えず写メ撮るの」 「オレも」 すぐにでもスマホを取り上げたいが、ヒラヒラのスカートが気になってゆっくりにしか歩けない。 「可愛いわ」 「ねっ!」 「私も同じのを着てみたいです!」 「では、こちらに」 他のお客さんまで注目してきて、どうしていいか分からなくなる。 「静くんだったかしら? 次はこれを着てみて。ジャケットは同じものを羽織ってね」 試着室にはいってからまじまじと見る。 白シャツはノースリーブで首はハイネックになっている。 ワンピースを脱いで、まず白シャツを着た。 続いてスカート。 色はジャケットと同じでパステルカラーの水色。 着てみたら何もしなくてもふわっとしていて、丈は膝が見えるくらいだからさっきのワンピースよりも短い。 でも歩いてみてもあまりヒラヒラしないから、さっきよりも歩きやすい。 ジャケットを羽織るとトータルコーディネートをしたみたいで、素敵だった。 あ………素敵なのは服、あくまでも服の話です。 試着室を出るとまた注目されてしまう。

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