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第430話.驚かせたい
「あの、僕は可愛くないですよ。それより君達の方が何倍も可愛い!」
可愛いと言われただけで顔を赤くする人が、可愛くないなんてそんな事あるはずが無い。
「可愛いのに可愛くないって言うの、静とよく似てるね」
「確かに。認めたら楽になるのにな」
僕とこの可愛い人が似てる?!
そんなの申し訳ない。
「あの、僕と似てるなんて、気を悪くされましたよね? すみません」
頭をぽんぽんとされて下げた頭を上げた。
「こんなに可愛い子と似てるなんて嬉しいよ」
初めて会った時のようにふわっと笑うからまたお花が舞った。
「それで、どうして静くんは女装してるの?」
雨音さんの言葉で、今の自分の格好を思い出した。
「付き合ってる人とは禁断の恋だから、正体がバレないように旅行に行きたいんですって! 静先輩なら女装が最適でしょう?」
来夢くんが答えてくれたけど、すごく恥ずかしい。
「で、その出来栄えを見てもらいたくて……長谷先輩とヒロ先輩も驚いてたけど、もっと大人にも見てもらいたくてあのままの格好で連れて来ちゃいました」
「俺からすると普段の格好でも十分可愛いけど、今の静くんは美少女にしか見えないね」
美少女?! 僕の名前を言われた気がするけど、空耳だよね?
「静さんは小さい頃も可愛かったですよ。静さんの母親は女の子を欲しがっていたので、女の子の服ばかり着させられて……」
「吾妻っ!」
アルバムからは女の子の服を着ているものは全て抜き取っているから、そんな恥ずかしい過去を知られる事はないと思っていたのに……吾妻のバカっ
「昔の事ですし、問題ないでしょう?」
「何それ! すっごく見たい!」
誠がキラキラの目をして言っているのが見なくても分かる。
「それが残念なことに俺も写真は持ってないんですよ」
吾妻の言葉にホッとする。
「あの、雨音さん。本当は変ですよね? 鈴成さんに嫌われるのが、怖くて………」
小さい頃はまだしも16になって女装なんて……似合う訳が無い。
「静くん、俺には喜ぶ鈴成くんの姿しか想像出来ないけどな」
「え?」
「恋人の新しい面が見られることはとても嬉しいことだからね。それと、本当によく似合ってる。俺は旅行の時にその格好で行った方がいいと思うよ」
穏やかに微笑む雨音さんを見るとウソを言っているようには見えない。
本当にこんな可愛い格好が似合っているのだろうか………?
「大丈夫。いつもの格好がいいと言われたとき用に着替えも持って行けばいいよ。鈴成くんを驚かせるつもりで着れば、気持ちも少しは軽くなる?」
「驚かせる?」
「うん。いつも冷静な鈴成くんの驚いた顔見たくない?」
「見たい、です」
長谷くんや芹沼くん、雨音さん達のように鈴成さんも驚くかな?
驚いた顔は見たい……から今日買った服で行こうと決めた。
下着は恥ずかしいけど、それも含めての格好だから……着ないとだね。
髪の毛を巻くためのボールも貰ってきたし、リップグロスも貰った。
ランチの前に服を着替えながら、自分が思っているよりもずっと旅行を楽しみにしていることに気が付いた。
今回の旅行ではちゃんと言葉にして伝えないといけないことがある。
恥ずかしくても胸が苦しくなっても、伝えるって決めたから………。
「静、着替えられたか? なんか手伝うことあれば言えよ」
「もう着替えられた、から大丈夫。ありがとう、敦」
他の買った服の入った袋に女装用の服を入れて、髪を一つにまとめてから雨音さん達が使う部屋から店舗に戻った。
「あれ? 静先輩、リップグロス付いたままですよ。里崎さんから落とす為のやつ貰いませんでした?」
「あ、ウェットティッシュみたいなの、貰ったけど」
袋の中からそれを取り出す。
「これ、メイク落とし用なんですよ。口閉じてて下さいね」
来夢くんが拭き取ってくれた。
来夢くんは今日1日とても楽しそうにしてるけど、明後日の試験結果と終業式は永遠に来ないで欲しいと思ってるはず。
忘れようとしているんだろうなぁ。
吾妻が今日ここにいるということは、もう調べものは終わってるんだよね。
あとはきっと明さんが何かをするだけなんだと思う。
僕は来夢くんがずっと心から笑っていられるように願うことしか出来ないことが歯がゆかった。
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