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第431話.諦める他無い

期末試験の結果が貼り出された。 人の波が落ち着いてから見に行く。 前回は10位だった。 期末試験だけは今までの試験結果は関係ない。範囲が今までの全部になるからテストの結果がそのまま順位になる。 ドキドキして結果表を見る。 10位から段々と上がって行く。 自分の名前2番目にあった………。 1位じゃないことにひどく落胆する。 「来夢、やったな」 「来夢くんすごいね!」 「来夢くん、おめでとう。1位タイだね」 「え?!」 よく見たら1番と2番の名前の上にはどちらも1位って書いてあった。 「あの、静先輩は?」 「もちろん1位だよ」 「敦先輩と誠先輩は?」 「あー、オレは2位タイで誠は……」 「僕は4位……悔しい!」 本気で悔しがる誠先輩なんて初めて見た。 人って変わるんだなって実感する。 「来夢くん……?」 「1位取ったら信じるって言いましたよね? でも、靖さんの所に行くのは今日ですよ?! もう奇跡が起きる時間も無い………」 「お願い、最後の最後まで、諦めないで。それと、別荘に行くのをなるべく、遅くなるようにして」 ホームルームで通知表を受け取ったら後は帰るだけ。 僕の人生が終わる。 それでもさっきの必死な静先輩の姿が忘れられない。 1度家に戻って靖さんから送られた趣味の悪い服に着替えた時も、お父様とお母様に挨拶をした時も、靖さんを待ち合わせ場所で待つ間も静先輩の顔と声がずっと頭と耳から離れない。 「来夢、逃げないで来たね。乗りなさい」 車の助手席に乗るとタバコ臭いし、直前まで吸っていたのか煙を吸い込んで咳き込む。 靖さんは贅肉が多くて体も重そうだ。更にヘビースモーカーだし、健康に気を使っているとは思えない。 「別荘で食事も出来るが、今日は外で食べるか?」 別荘にはお抱えシェフを連れて行くのだろう。 静先輩の言葉が頭の中で鳴り響く。 「夕陽が沈むのを見てから外で食事をして、別荘に向かうのでもよろしいですか?」 「夕陽ね、綺麗に見られるカフェがあるから連れて行ってやろう」 「ありがとうございます」 「その近くのレストランの予約をさせるから」 車とスマホを繋げているらしくハンズフリーで執事か誰かに命令する。 言葉も暴力になる事があるとは、靖さんは考えたこともないだろうなぁ 車を走らせている間、靖さんはタバコを吸う。 窓を開けることはないがエアコンがついているから、煙が充満することもない。 それでも喉はイガイガするし少し息苦しい。 靖さんが連れて来てくれたカフェは目の前が砂浜と海で、夕陽が綺麗に見えることがすぐに分かるような場所だった。 遊泳禁止の区間なのか、海水浴客はだれもいない。 タバコを吸えるようにテラス席に通してもらう。 自分が下座になるように座ったら煙は自分とは逆の方向に流れて行き、ホッとする。 靖さんはアイスコーヒーを、僕はアイスティーを頼んだ。 それは美味しかったけど、雨音さんの淹れたものに比べたら安っぽいものだった。 ゆっくりと飲むうちに太陽が沈んでいく。 飲み物を持ってきた店員さんに 『砂浜には自由に降りて頂いて大丈夫ですよ』 と言われていた。 「砂浜に降りてもよろしいですか?」 「好きにしなさい」 「ありがとうございます」 しっかりとお辞儀をしてから砂浜に降りる。 波打ち際まで行って、海水を触ると思ったよりもヒンヤリとしていた。 太陽が沈むのを見ながら、靖さんと一緒に行きたくないという気持ちも、本当の自分の気持ちも寄せては返す波に流す。 太陽が沈み切ると空に浮かぶ雲が真っ赤に染まる。 「綺麗……」 涙が出る。 綺麗なものを見たからなのか、これからの事を思ってなのか……涙の理由が何なのか自分でも分からない。 涙を拭いて靖さんの元に戻る。 すぐにお店を出てレストランに向かった。 レストランは素敵な所だったが、味も何も覚えていない。 フルコースが終わって車に乗ると、あと向かうのは別荘だけ……… 静先輩、諦める他無いみたいです。 「来夢、もう着くよ」 「はい」 車が車庫に入れられて降りる。 別荘を靖さんの隣で見上げる。 「来夢」 「はい、靖さん」 入りたくない、そんな気持ちは海に流したはずなのに………! 足が上手く動かない。 手首を痛いくらいに掴まれて、反対の手で別荘の鍵を開ける靖さんを見つめることしか出来ない。 ドアが開いて心の中でみんなに別れを告げる。 『さようなら』

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