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第433話.恋心

✳︎時間経過に注意 日本に戻ってそろそろ1ヶ月になる。 海外の暮らしが長いと、日本人なのに日本は戸惑うことが多い。 偶然見かけただけで、他に動く人がいないから追いかけた。 嫌がる女の子を連れ去ろうとする男。 初めはそんな風にしか見えなかった。 ある程度の距離を保って後を追う。 裏路地を抜けたらラブホテル街だった。 「いやっ! 誰か! 誰か助けっ……んんー………」 助けを求める声が響くが、こういう場所で関わり合いになりたくないのだろう。 その声に気が付いた人達も、気が付かなかったフリをする。 一瞬見えたその子の顔に驚きを隠せない。 来夢?! 「悪い子にはお仕置きが必要だね」 男の言葉は気持ちが悪いほど、楽しんでいることが分かった。 怒りの感情しか湧き上がってこない。 気が付けば俺は来夢のことをしっかりと抱き締めていた。 「嫌がる子を無理矢理なんて、犯罪ですよ?」 「な、何だよテメェはっ!」 「通りすがり、と言いたいところですが、来夢は私のものなので手を出さないでいただきたい」 俺の事を覚えている訳もないだろう。 名前を教える為にスーツの名前の刺繍を指差す。 頭のいい子だったから、きっと分かってくれるはずだ。 「何バカなことを言ってんだよ! ライムは俺のものなんだよ。誰にも渡すつもりは無い! それにあんたこそ知り合いでも何でもないだろ!」 来夢の腕を掴むそいつには本当に怒りしかおぼえない。 「え、えのもとさん! 助けて」 必死に抱き着いてくる来夢が可愛くて仕方が無い。 「ほら、来夢はあんたじゃなくて私を選んだようだよ? 汚い手は今すぐ離せ」 軟弱そうな男の腕を掴むと来夢から引き剥がして自分が盾になるようにする。 不安そうな来夢の頭をぽんぽんと撫でて微笑んだ。 「少し離れて待ってて。すぐに片付けるから。心配はいらないよ。これだけ持ってて?」 スーツのジャケットを渡たすと、それをぎゅっと抱き締めるよにして持つ。少し頬を赤らめて見上げる来夢が可愛い。 そんな来夢のことをずっと見ていたいから、男は回し蹴り一発で戦意を喪失させた。 その男を交番まで連れていき、今までのことを全て来夢に話させた。 その後来夢の行きつけの喫茶店で一緒にランチを食べて話をした。 名刺を渡して俺の名前を見て、ようやく俺の事を思い出してくれたらしい。 来夢が高校生になったと聞き、本当に驚いてしまった。 でもよく見れば少しだけ大人っぽくなったか……? 恋人でも出来たのかと思って聞いてみたら、望まない婚約者がいるという。 嫌だけど父親の言うことは絶対だ、なんていつの時代の話だよ。 「ねぇ、ダイ兄ちゃんには恋人いるの?」 デザートを食べながら聞かれた。 少し不安そうな顔をしているように見える。 「ん? 今はいないよ。募集中」 嘘を言っても仕方ないから本当のことを言う。 「そうなんだ! ダイ兄ちゃんはカッコイイからすぐに出来そうだね!」 「それはどうかな………? 好きな子は俺を見てくれないから」 来夢と再会して、出会った頃の恋心を思い出した。 年齢差があるし、俺の事を想ってくれることなんてないだろう。 「告白はしないの?」 「んー。したら迷惑になるのか助けになるのかちゃんと見極める必要があるから、ちょっと考えようかなと思ってる」 相手が目の前にいる来夢だとは夢にも思ってないだろうなぁ。 もし、この気持ちを伝えることがあるとすれば、西園寺から来夢を助けてからのことだ。 来夢を全寮制の高校に送り届け、後ろ姿を見つめて助けたいという気持ちが膨れ上がる。 懐かしくて昔の家の辺りに行くと、知り合いに会った。 「え? 明さん?」

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