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第434話.同志

有栖川邸を出てから家の周りを1周まわった。 善三さんはやり手だが色々と手を広げ過ぎたところがある。 全てを把握することが出来なくなって、信頼出来るパートナーもいなかったのだろう。事業が上手くいかなくなるのも仕方が無かったと言える。 大元は今でも業績はいいが、他のところに補填すると手元には何も残らない。 誰かに助けを求めるのはプライドが許さないから、来夢くんを引き合いに資金を得ようとした。 推測だが、概ね当たっているだろう。 有栖川邸の庭の木々の手入れはかなり前からされていないようだ。 切羽詰まっていると容易に想像が出来る有り様だ。 有栖川邸を見上げて溜め息をつく。 「え? 明さん?」 名前を言われてそちらを見たら、驚く人物がいた。 「大輝? いつ日本に帰ってきたんだ?」 「それはこっちのセリフですよ。あ、俺は1ヶ月前に。仕事も日本ですることになったので、これからは殆ど日本にいることになります」 「で、どうしてここに?」 榎本大輝、日本企業の海外支社でバリバリ働いていた若者。 榎本家と大野家は昔から仲が良かったから、大輝のことは小さい頃から知っている。 「昔はここに家があったので見に来てしまいました。有栖川の長男の来夢に偶然会って懐かしくなってしまったんです」 来夢くんのことを話す大輝は穏やかで幸せそうだ。 「好きなのか? 来夢くんのこと」 「明さん、来夢のことを知ってるんですか?!」 「俺の甥の後輩でね」 納得したような顔をして頷いた。 「来夢のこと、ずっと好きだった。会ってそれが分かりました。もちろん海外で付き合った人もいましたが、どれも長続きしなかった。今となれば来夢じゃないことに違和感があったんです」 付き合ったことすら後悔しているようで、来夢君への気持ちが溢れている。 「西園寺のことは聞いたか? 俺はあの子を助けたい。西園寺家を潰そうと思ってる。人手が足りないんだ。手伝ってくれないか?」 「俺に出来ることは全てやります。あの子を助けられるのなら」 頭に手を置く。 「あまり気負うなよ。事は慎重に進めたい。西園寺だけでなく、来夢くんにも気が付かれないようにしたい」 「分かりました。明さんがJOINとか使っている想像がつきませんが、使ってます?」 JOINね。登録だけは拓海に勝手にされたが……殆ど使ってない。 「いや、ああいうのは苦手だ。伝えたい事があれば電話が1番手っ取り早い」 「では、番号の交換をしましょう。日本での仕事は9月からで、暫くは長期休暇なので何時でも動けますから」 さっきの黎渡くんとの会話を思い出す。 「西園寺家の少年メイドから話を聞く予定になっているんだが、それを大輝に任せたい。いいか?」 「もちろん。絶対に聞かないといけないことは?」 「金遣いの荒らさと、どれだけ不貞をはたらいているかだな。訴えられないようにしているが、そうとう未成年に手を出しているらしい」 言いながら胸くそ悪くなる。 拓海がカウンセリングしただけでも両手では足りない人数だと言っていた。 「明さんは何を調べるんですか?」 「金遣いの荒らさが酷いと聞いているが、会社の業績がいいとも言えない」 「粉飾決算ですか?」 「あぁ、靖さんは何もせず金だけ使いたい放題と聞いている。俺は会社の人間と話しをしてこようと思う」 顔を曇らせる大輝は、おそらく来夢くんの事を考えているのだろう。 「俺達で来夢くんを救おう。あと2人一緒に動いてくれる人がいる。それはまた今度紹介するよ」 力強く頷く大輝の目は怒りと慈愛で燃えていた。
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