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第436話.変わる

そ 雨音さんがアイスコーヒーを持ってきてくれて、会議は1時中断だ。 思わず前に座っている吾妻さんを見つめる。 「榎本さん、何か?」 「いや、吾妻さんは凄いなと思いまして」 「は? 何が?」 「明さんにも臆することなく意見を言えるなんて……俺にはとても………」 俺の言葉に反応したのは吾妻さんではなく、後藤さんだった。 「……ははっ、お前っ、ふふふ、やべっ、笑い止まんなっ、はははっ……」 「榎本さん、俺ってそんなに若く見えますか?」 「え?」 「大輝、一樹は俺と晴臣と同い年だよ」 一瞬何を言われたのか分からなかった。 「ええ?! 本当に? 俺と2、3歳くらいしか変わらないと思ってました。なんか、すみません」 「俺からすれば若く見られた方がいいと思うけど、一樹は童顔なのを気にしてるからな」 「もう慣れてきたけど……でもやっぱりなんか嫌だ」 頬を膨らませるその仕草は、更に幼く見えるということが分かっていないのだろう。 これでは俺と同い年だと言っても誰も疑問に思うこともなさそうだ。 「俺は可愛いカズくんも好きだけどなぁ」 アイスコーヒーのお代わりを持ってきてくれた雨音さんが、吾妻さんの頭を撫でる。 2人が付き合っているのは雰囲気だけでも分かる。 「あ、雨音さん!」 非難したいのだろうが顔が真っ赤で、もっと撫でてと言っているようにしか見えない。 ここまで感情が外に出てしまう人も珍しい気がする。 誰もが本心を知られまいと仮面をかぶる。 でも、吾妻さんにはその仮面自体がなさそうだ。 ある意味では羨ましい。 海外に行って、仕事をするようになってからは特に、自分の本音を悟られないようにしていたから、仮面を被ることが当たり前になっている。 来夢に対する想いも今回の事が終わるまでは誰にも悟られたくない。 おそらく明さんは気がついているだろうが、他の人には…… 吾妻さんはまだ笑いの止まらない後藤さんを怒っている。 「大輝、一樹は思ったことがすぐに顔に出る。だが、子供の扱いには相当慣れてるんだ。昔はベビーシッターをしていたこともある。俺の甥のこと覚えてるか?」 「えっと明美さんの息子さんで……静くんでしたっけ?」 「そうだ。その静のお世話係をしていたこともある」 そういえば、実さんはこういうことを一緒にしようとする人だったよなぁ。 「実さんは今回一緒に行動しないんですか?」 「明美と実さんは交通事故で死んだよ」 「え?!」 「静は今でも本島の姓を名乗っているが、俺と一緒に暮らしているよ。今は色々とあって入院しているけどな」 明さんの表情から、秀明さんが逮捕されたことと関連しているのだろうと分かる。 「今度静くんにも会わせて下さい。この件が片付いてからでいいので」 「あの子も恋をして、より可愛くなってるよ」 「親バカですね」 「良いんだよそれで。あの子には絶対に幸せになって欲しいからな」 昔の明さんはもっと近寄り難い人だった。 いい人がそばにいるのかな? 「明さんの恋人ってどんな人です?」 「拓海か? 最高の伴侶だよ。あいつを守るためなら俺はなんでも出来る」 凄く優しい顔だ。 人は人で変わるって言うけど、本当なんだなぁ。 俺も来夢の為に変わりたい。 あの子を色々なことから守れる位、強くなりたい。 「話は戻りますが、少年メイドの名前と連絡先を教えて下さい」 「目の色が変わったな。私生活を暴露するのは難しい。もし、何も証拠がない場合はこれから証拠を押さえる必要がある。それにはこの少年の協力が不可欠になる」 「えぇ、信用して貰えるように向き合います」 明さんは微笑むと何度か頷いた。 「今の大輝なら何でも頼めそうだ。少年の名前はルイ。これが写真だ」 写真の子は前髪が長く、顔が殆ど見えない状態だった。 「連絡先はこれな。ここでスマホに入れてくれ」 明さんのスマホを覗いて番号を入力する。 「アポは取ったと言ってましたよね? いつどこでですか?」 「急だが、明日ここで」 「分かりました。もしも、こちらから連絡をするとしたら何時頃がいいとかありますか?」 「午後2時半から4時は買い物と自分の時間なんだと。明日の買い物は今日の夜に分かるらしい。こちらで午前中に用意して待っていることになっているよ」 「なるほど」 きっと銘柄の指定などもあるだろう。 なるべく細かく教えてもらう必要があるな。 今の時間が3時半なので、早速明さんからの連絡して俺の番号を伝えてもらう。 5分ほどしてから電話をかけた。

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