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第437話.ルイくん
夜になってルイくんから電話があった。
買い物してくるものの説明を受ける。
銘柄などの指定も多く買い物が大変だと思ったが、いつも買いに行くお店の人に話をしておいてくれたとのことで、ホッとした。
年齢は13歳。
明さんの話では天涯孤独の身で、西園寺家の前で倒れていたのを執事が保護したらしい。
学校に通っていたことも無いらしく、文字を書くことも出来ないと聞いた。
現代の日本でもそういうことがあるのかと思うと、にわかには信じ難い。
電話で話した感じではしゃべり方は丁寧だが特に変だとは思わなかった。
買い物リストを書いた紙を持って、指定されたお店に向かう。
お店の前に吾妻さんが立っていた。
「吾妻さん、お待たせして申し訳ありません。早いですね」
「俺、道に迷うことが多くて、いつも早めに行動するようにしてるんだ。だから気にしなくていいよ」
迷って焦る吾妻さんは可愛いと思うから、それを目撃出来なかったのは何だか残念だ。
お店に入るとひと目で上質なものが揃っていると分かる。
店員さんを見つけて声をかける。
「すみません」
「はい、何かお探しですか?」
「いえ、吉岡さんはどちらにいらっしゃいますか?」
ルイくんから教わった名前を出す。
「吉岡でございますね? すぐに呼んでまいりますので、少々お待ち下さい」
やって来たのは可愛らしい女性だった。
「あの、榎本さんですか?」
「はい、あなたが吉岡さん?」
「ふふっ、これでも20歳は超えてるんですよ? 特にルイくんは大人が苦手なので」
明さんはそれも分かっていたのだろう。だから若く見える吾妻さんと俺を選んだ……
吉岡さんにメモを渡すと全て用意してくれた。
お店を出たのは2時10分。
待ち合わせは2時40分に喫茶店で、となっている。
「荷物も多いですし、待ち合わせ場所に行って何か飲んで待っていましょうか」
「こんなに沢山の荷物を持てるのかな?」
「カートを持って行くと言ってましたよ」
「そうか、なら大丈夫だね」
吾妻さんはまだ会ったこともない子を心配している。
自分も心配はするが、ここまで心から出来ているかと言われたら自信はない。
喫茶店は裏路地にあって、ひっそりとしていた。
雰囲気はRainに少し似ているかもしれない。
座ってコーヒーを飲んで待つ。
「雨音さんのが美味しいですね」
「あの人はその日の顔色とかでも味を変えるからね。いつも人をよく見ているって思うよ」
話をする吾妻さんはとても穏やかな顔をしている。
雨音さんのことを信頼しているのだと分かる。
喫茶店のドアが開いた音がしてそちらを見ると、明さんから見せられた写真の子がいた。
思ったよりも小さくて、小学生にも見える程だ。
施設に入っていたことも無いとしたら、ずっと路上生活だったのかもしれない。
一応自分の特徴と今日の格好を教えていたが、分かるだろうか?
店内を見回してからこちらをジッと見つめてきた。
小さく手招きをすると、てとてととこちらに歩いてくる。
「……お待たせしました………」
聞き逃してしまうほど小さな声だ。
「怖ければもっと離れるかい?」
「大丈夫……です」
ルイくんから聞いた話は全て録音していた。
吾妻さんがいてくれて良かった。
子供の扱いに慣れているというのは、本当のことだった。
西園寺靖が最低の人間だということは嫌という程わかった。
「出来ればで大丈夫だけど、これを靖さんの部屋に設置出来るかな?」
小型カメラで細工をしたから録画されていても光を発することはない。
「お仕事に行った後であれば………やってみます」
明さんからルイくんは黎渡からの紹介だと聞いて、少し不思議に思っていた。
「ルイくんは黎渡と知り合いなの?」
「ら、黎渡さまですか?! 以前来夢さまのことで西園寺家にいらした時に、お話させていただいて……何度かここでもお会いしました」
ここにきて初めてルイくんが微笑んだ。前髪が長くてよく見えないが、顔も赤くなっているように見える。
黎渡はルイくんにとって眩しい、憧れの人なのかもしれない。
俺は久しぶりに黎渡とも話をしたいと思っていた。
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