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第438話.来夢と黎渡

ルイくんから話を聞いた2日後に明さんから招集がかかった。 ルイくんと話をした時のボイスレコーダーを持って、また喫茶Rainに向かう。 明さんたちが西園寺コーポレーションで話をした内容も聞くことになっている。 また4人で話すのかと思ったが、もう1人いた。 「大輝さん、お久しぶりです」 「黎渡か? 来夢とは随分と大きさが違うな。まぁ、昔から黎渡は来夢より大きかったが」 来夢と黎渡が双子だとは本当に信じられない。 「来夢のこと助けてくれたって聞きました。ありがとうございました」 黎渡も来夢のことを心配していると、ひしひしと伝わってくる。 「来夢じゃなくても助けたよ。でも、偶然でも見かけて良かったと思ってる」 あの時自分も他の人と同じように動かなかったら、確実にあのストーカーにレイプされていただろう。 「その後にここに来て話したけど、どうしてあんなに笑わなくなった?」 「それは………」 「西園寺のおっさんのことだけじゃないよな? 善三おじさんとのこともあるんだろ?」 黎渡は苦しそうな顔をして俯く。 「お父様は男は大きくて強いものという固定観念を持っているから……」 「来夢は小さくて弱いと? 理不尽なことを受け入れようとしている姿は、俺には強く見えたけどな」 黎渡は唇を噛み締める。 「俺だってずっと助けたいと思ってる。でも、どうしたらいいか……分からない」 それだけ父親が大きくて強い存在なのだろう。 黎渡も図体はでかいがまだ高校生になったばかり……… 善三おじさんに楯突くことなど出来ないだろう。 「俺達が助ける、絶対に。その為にルイくんとも会ってきたよ」 「ルイはちゃんと話せましたか?」 「吾妻さんが相手をしてくれたからね」 後ろを振り向くと、吾妻さんがこちらに来る。 「えっと、来夢くんの弟さんの黎渡君でしたね。初めまして吾妻といいます」 「ルイは話を?」 「えぇ、たくさん話をしてくれましたよ」 「顔も見せました?」 黎渡は信じられないようで目を丸くする。 「顔? 前髪が長くて見えなかったが?」 「そうですね。口元が辛うじて見えるくらいでしたね」 ホッと息を吐き出すのを見ると、顔を見せることは余り良くないことなのか? 「ルイはもともと金髪碧眼なんです」 「え?」 「聞いてますよね? ルイが天涯孤独だって。あいつも両親のことは何も知らないんです」 綺麗な黒髪だと思っていたが、あれは染めていたということか。 両親のことを知らないならば、何処の国の出かも分からないことになる。 周りの人間と容姿が全く違うとなれば、排除されることも、誰とも仲良くなれないことも容易に想像出来る。 施設にも入っていなかったし、路上生活を余儀なくされていたらしい。 「金髪碧眼?! それって、路上生活で不利にしかならないだろ」 「ずっと髪は長くて目は見えないようになっていたし、髪も薄汚れて金髪と思われていなかったと言っていましたよ」 憧れを感じている黎渡に本当のことを話したとは思えない。 恐らく辛いこともあっただろう。 最後は俺に対しても警戒を解いてくれたと感じたが、吾妻さんがいなかったら何も話してくれなかったかもしれない。 「そうか」 「えぇ、それよりルイは何と言っていたんですか?」 「それは全員で話そうか」 「黎渡くんにもまだ協力して欲しい」 「明さん」 黎渡は俺達の顔を見て力強く頷いた。 「俺に出来ることは何でもします。来夢には昔のように笑っていて欲しいから……」 まるで恋でもしているような目に胸騒ぎを感じる。 双子はお互いの気持ちが分かると聞いたことがある。 それが本当なら俺でも分かる黎渡の気持ちは来夢も気が付いているはずだ。 こんな事ならあの時、ここで好きな人は来夢のことだと伝えれば良かった。 時間が経てば経つほど、その思いを口にするのが難しくなる。

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