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第441話.必ず助ける
病院に着いて明さんに言われた通り受付で面会用のバッチをもらう。
部屋がどこなのか確認をして、真っ直ぐに向かった。
静くんに会うのはかなり久々だ。
出来れば明美さんと実さんにも会いたかった。
病室の扉は閉まっていたのでノックをする。
「どうぞ」
許可の声が聞こえたので中に入る。
久し振りにみた静くんは儚い印象が強い。
ベッドが介護ベッドで、頭の方が上げられて座った状態になっている。
「あなたが榎本さんですか?」
ふわっと笑う美人の白衣を着た男性……
「はい。榎本大輝です。もしかしてあなたが明さんの婚約者さんですか?」
思っていたよりも背が高いが、雰囲気はとても優しい。
「そうです。僕は地迫拓海です。明さんからあなたの話は少し聞きました。長い間海外住まいだったそうですね。これからはずっと日本で暮らすのですか?」
「仕事の関係で海外出張は度々あるかもしれませんが、拠点は日本になります」
俺の返答に地迫さんは静くんとアイコンタクトをして、頷き合っている。
「お久しぶり、です。大輝さん」
「静くん……」
「そんな顔、しないで下さい。もう少ししたら、学校にも、戻れそう、なんですよ」
表情が殆ど変わらないのも、色々とあった後遺症なのだろう。
僅かに口元が笑顔を作ろうとしていた。
「静くんから会いたいと言われるとは思っていなかったよ」
「来夢くんの、ことなんです」
「来夢の?」
「はい」
静くんの話は苦しいものだった。
自分と同じ目に遭わせたくない。
その想いがひしひしと伝わってくる。
「来夢くんのこと、好きですか?」
全てを見透かしているような眼差しだ。
嘘を言えばすぐに分かってしまうだろう。
「答えなくても、いいです……来夢くんの、好きな人が、分かったので」
静くんはそれを俺だと言いたいようだった。
そんな奇跡は起きない……起きる訳が無いのに……
俺が言葉を発しようとしたら、それよりも前に静くんが話す。
「絶対に、助けて、下さい……僕は誰にも、助けてと、言えなかった………」
言えたとしても相手が秀明さんでは、誰も動くことが出来なかっただろう。
「来夢くんの、本当の笑顔が、見たい」
「それは俺も見たいよ。でも、それにはあの子の両親とも話さないといけない」
「来夢くんの両親については、僕と明さんに任せて」
地迫さんは心療内科医で、人の気持ちを引き出す専門家だ。
善三おじさんと奥様については任せれば問題ない。
俺は俺に出来ることを全力でするだけ。
来夢の為にたくさんの人が動いている。
助けた後になるが、この事を伝えなくちゃならないな。
自分は1人ではない
そのことを知ると人は強くなれるし、優しくなれる。
「あの、大輝さんは、車とバイクは、どちらの免許を、持っていますか?」
「え? 両方持っているが?」
「では、バイクの用意を、して下さい。葉山の別荘に、行くことに、なったら……渋滞の、心配がない、バイクがいいと、思うので」
その前に決着がつけばいいのだが、明さんもギリギリになりそうだと言っていた。
会社も家も潰すのは容易なことではない。
「分かった。用意しておくよ」
「来夢くん用の、ヘルメットも、忘れないで、下さいね」
静くんは俺達が来夢のことを必ず助けると信じて疑っていない。
「静くん、来夢のこと必ず助ける。西園寺のおっさんには絶対に渡さない。安心していいよ」
「……はい」
静くんは驚いたのか少し目を瞠り、それから確実に微笑んだ。
病室を出た所に明さんがいた。
「明さん、いたんですか?」
「大輝、静との約束は必ず守ってもらうよ。……元探偵とは連絡を取ったのか?」
明さんに聞かれていたことが気恥しい。
「元探偵……吉野ですが明後日会うことになりました。金は誠意を見せろと言われただけで金額の提示はありませんでした」
喋り方が嫌な感じで、本当なら関わりたくない人だと思った。
「1人で来いと言われたか?」
「いえ、こちらは2人で行くと言ったら、分かったとだけ」
「名前は吉野……」
「吉野忠之 です。元探偵……それも本当なのか怪しい雰囲気でしたが………」
「こちらで調べておく。弱味を握れば今後も金を寄越せとか言われることもないだろうからな」
調べられる時間は1日半しかないが、明さんなら事細かに調べ上げると確信めいたものがあった。
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