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第444話.刻、一刻

吉田は約束通り西園寺に関するデータを全て提供してきた。 メールでのやり取りや細かい指示まで、捨ててしまってもおかしくないようなデータまで残っていた。 ルイくんから貰った動画のデータと、吉田から貰った資料のデータ。 未成年の少年に猥褻な行為を繰り返す最低な男…… 吉田については明さんの知り合いの凄腕探偵から預かったデータ。 おそらくあれだけでも逮捕されるだろうが……明さんの婚約者さんと後藤さんと吾妻さんがかなり怒っていて、それだけでは気が済まないらしい。 静くんの友達が吉田の毒牙に遭っていたのだから仕方が無いのかもしれないが、まさかあの白猫の彼がその子だとは思っていなかった。 明さんが進めていた会社の方も取締役達との話し合いで、裏帳簿などの機密データも入手出来そうだと言うことだった。 西園寺を再起不能にする為のものはどんどんと揃ってきている。 あとは来夢の両親がどうするのか、それと水面下で進めていた西園寺自身と西園寺家を潰す手立てを、どこで明るみに出すのか……という所まできている。 「明日は静の友達の誕生日パーティーがあって、夕方まで行動出来ない。大輝、晴臣と一樹と一緒に今までのデータの整理をしておいて欲しい。夜には俺と拓海も合流する」 「分かりました。では喫茶Rainで作業しますね」 「ん、頼む」 喫茶Rainは居心地がいい。 来夢が気に入って何度も通っていると言うのも頷ける。 静くんの友達の誕生日パーティーには来夢も呼ばれているらしく、ここに来ることは無いことが分かっているから、心置き無く作業が出来る。 自分のノートパソコンを使って、今までの資料などをまとめていく。 「凄いな。俺はこういう作業が1番苦手なんだ」 「そのパソコンもネットに繋がってますよね……? ハッキングとかされませんか?」 吾妻さんは後ろから画面を覗き込んでいる。 後藤さんは新しいアイスコーヒーを持ってきてくれた。 「その点は問題ないです。会社でも使うもので、セキュリティレベルもかなり高いですし……ここだけの話、凄腕ハッカーに守らせているんです。あいつに勝てる奴はいませんから」 「企業というのは色々な人を雇うものですね……」 話しながらも手は動かす。 西園寺家の方は殆どまとめられた。 後は会社の方だが、こちらはかなり複雑だ。 「後藤さん、会社の方のことでお聞きしたいのですが………」 「大輝さん、俺の事を後藤と呼ぶ人はほぼいないので……できれば晴臣と呼んで頂けませんか? 後藤は慣れなくて」 一回り以上年上だとは後藤……晴臣さんも吾妻さんも思えない。 「では、晴臣さんとお呼びしますね。資料なんですが、ここからよりも、ここからまとめた方がいいですか?」 「そうだなぁ……こっちからの方が後々これが出てきた時に絡ませやすいと思うのですが、どうでしょう?」 晴臣さんはたくさんの資料の中から2つの資料を並べた。 「なるほど。これがあるのなら、確実にこちらからですね。元々実さんの秘書をされていたと聞きました。流石ですね」 「俺は何もしてませんでしたよ。実様が凄い方でしたので………」 晴臣さんと吾妻さんの協力の元、資料の整理は着々と進んだ。 カランカラン 扉が開く音がしてそちらを見ると、明さんと婚約者の拓海さんがいた。 「資料の整理は進んでるか?」 「明さん、こんな感じでどうですか?」 ノートパソコンの画面を見てもらう。 仕事をしている時よりもドキドキする。 「うん、いいね。分かりやすくまとまってる。ちょっと細かくなるが、こことこことここ。見出しをつけると更に分かりやすくなるな」 言われて初めて気がついた。 すぐに言われた通りに直すとワンランクアップした様に思える。 「そうだ、みんなに大切なお知らせだ。タイムリミットは今まで19日の夕方と言ってたが18日の夕方に1日繰り上がった。今までもギリギリで動いていたが、更にギリギリになる」 「する事に変わりはないので、俺は資料の整理と西園寺が連れ込んだ子供と吉田の資料の突き合わせを進めます」 明さんは頷いた。 「俺は吉田が逃げられないように、昔のボディーガード仲間にも声をかけています。出来れば捕まる前に不能にしておきたい所ですが……」 「晴臣、やり過ぎは気を付けろよ。お前が捕まるなんてことになるのは避けたいからな」 晴臣さんは溜め息をついてから小さく『分かっています』と言った。 俺達はそれぞれ出来ることを、最速で行っていくだけだ。 着々とその日は近付いてきている。

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