449 / 489

第445話.親の顔

大輝には資料の整理とまとめを、晴臣には吉田の監視と大輝のフォローを、一樹には拓海と一緒に西園寺の毒牙にかかってしまった子達から話を聞いて貰っていた。 善三さんからは6月15日に連絡があり、西園寺家とは縁を切るとはっきり言われた。 だがまだ来夢くんとの接し方をどうすればいいか悩んでいるようだった。 当初の計画では7月19日を来夢くんが西園寺の所に行く日だと思っていたので、行かずに済むようにと動いていた。 しかしそれが1日前になってしまった。 ギリギリで動いていたから行かずに済むようには出来そうもなかった。 当日の18日にどう動くのかを話に善三さんと奥様に会いに行くことにした。 拓海が自分も話をしたいと言っていたので一緒に有栖川家に行くことになっている。 拓海は善三さん達との話が終わったら、来夢くんの双子である黎渡くんとも話をしたいと言う。 黎渡くんは喫茶Rainに呼んだので、帰ってきたら話が出来るだろう。 時間が無い。 バカ親父の時にお世話になった刑事さんにさわりだけは話してあるが、まだ西園寺の名前は言っていない。 海外逃亡なんてされてしまったら、全てが水の泡と帰してしまう。 ただ、その点は来夢くんとの約束がある限り有り得ないと言える。 来夢くんには苦しい思いをさせてしまうが、西園寺に何かされる前に助け出す為に全力で全員が動いている。 「拓海と俺は有栖川家に行ってくる。黎渡くんがここに来る予定になっているから、よろしくな」 「黎渡が善三おじさんと話したんですよね? あいつも変わったんだ。俺も……」 大輝は黎渡くんが善三さんと対等に話が出来たと思っているかもしれないが、おそらくそれはない。 ただ、黎渡くんの声を聞こうとしてくれるようになった善三さんは、少しだけ考え方が変わったのかもしれない。 拓海と一緒に有栖川家の応接室に通された。 前に来た時は無理をしてでも有栖川は生き残るという気持ちが部屋に溢れていた。 今この部屋を見て感じるのは、無理はしないで自分達の力だけでどうにかしたいというものだ。 「明くん、本来ならこちらから出向くべきだったんだろうが……来てもらって申し訳ない」 前回のような威圧感はない。 奥様も質素な格好をしている。 「いいえ、時間を割いて頂いてありがとうございます。今日はもう1人いまして……」 「初めまして。医師をしています、地迫拓海と申します。来夢くんとも話を何度かさせて頂きました」 「お医者様?」 「えぇ、心療内科医をさせて頂いてます。来夢くんはカウンセリングが必要な状態である訳ではありませんが、話を聞いてあげたいと思ったので」 善三さんは不安を隠せずに表情に出ている。 「あの子はご両親であるお2人を味方にはなってくれない……怖いと感じているようでした。最近来夢くんに笑ってあげたことはありますか?」 2人は顔を見合わせてから俯いて溜め息をつく。 「来夢は長男であるが、私から見るととても頼りない。誰かに養ってもらうことが幸せだと考えた」 「その考えの全てを否定するつもりはありませんが、相手が西園寺さんというのは問題ですね。我々が調べただけでも、来夢くんが婚約者となってもたくさんの子供に無体なことをしています」 「え?! それは……念書に来夢が成人し、結婚するまでの間も他の人と関係を持たないと明記してある………」 善三さんが持ってきた念書には、確かにその旨が記載されていた。 この時点でこの念書の効力は無くなった。 だが、会社も家も潰すにはこれだけでは足りない。 「これだけでも来夢くんを救うことは出来ます。ですが、他の子達も二度と西園寺さんの被害を受けないようにと考えると……」 「来夢くんを助け出すのは別荘に着いた、その瞬間を狙うしかないんです。どうされますか? お2人も一緒に行きますか?」 2人は俺達に向けて頭を下げた。 「連れて行って欲しい。我々もあの子を救いたい」 2人は親の顔をしている。 良かった。取り返しのつかないことになる前にこの家族は修復出来そうだ。 「もう、時間が殆どありません。後は俺が西園寺コーポレーションの闇を暴くだけですがどうしても会計担当の藤岡さんと話が出来なくて………裏帳簿などはあの人が全てを管理しているようなのですが…………」 「藤岡くんか? 私が口添えをしよう。あの子のことはよく知っているんだ」 善三さんの計らいで藤岡さんとアポイントメントが取れた。 明日会ってくれるらしい。 善三さんは同席できないが、会って話しが出来るのならきっとこちらの味方になってくれるだろう。 色々と順調に進んでいたから、俺は少し簡単に考えすぎていたと思い知るまで、もう24時間を切っていた。 タイムリミットの7月18日まで後8日。

ともだちにシェアしよう!