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第446話.幼なじみ

今日は喫茶店としての営業もしている。 ランチの時間は満席になるくらいのお客様が来ていたが、もうすぐ3時になるけど今は2組しかいない。 自分もランチを食べて、資料の整理を再開していたので誰が出て行って誰が入って来たのかなんて気にも止めていなかった。 キリのいいところまで終わらせると伸びをして、ようやく同じテーブルにもう1人座っていることに気がついた。 2人がけのテーブルなのに全く気がついていなかった。 「……黎渡! いつからいた?」 「ん? 1時間前くらいかな」 スマホをいじるのをやめてこちらに顔を向ける黎渡は怒っているようには見えない。 「声をかければ良かっただろ?」 「作業の邪魔はしたくなかったから」 そういえば途中から資料が取りやすくなったと思ったが、黎渡が並べてたのか…… 「資料の並べ替えしてくれたのか?」 「ん、資料に日付けがあったからそれで並べてみただけだったけど、それが手助けになったのなら良かった」 時間を確認すると、もうすぐ明さん達が帰ってくる頃だ。 「助かったよ。ありがとう。黎渡は資料の整理とか慣れてるのか?」 日付けは見落としそうなくらい小さい文字だった。 現に俺は見落としていた。 「お父様の仕事の手伝いは中学の頃からしていたから……とは言っても資料を年代順に並べるとか、抜け落ちてる資料を元の場所に戻すとかそういうものだけど………」 黎渡は急に悲しそうな顔になる。 「来夢はいつも羨ましそうだった。一緒にそれをやろうとした時もお父様は来夢には触らせるなって怒って……理不尽だって分かってるのに反論も出来なかった」 「それでも、今回は善三おじさんも話を聞いてくれたんだろ?」 嬉しそうに笑った顔は小さい頃と変わらない。 「来夢を家族で助けたいって話したんだ。お父様もお母様もようやく話を聞いてくれた。元々2人共、来夢のことが大好き過ぎて拗らせただけだから」 来夢が愛されていないと感じていたのは間違いか……全てが上手く進めば家族のわだかまりも溶けるだろうか………? 「俺も善三おじさんに会いたい。口添えをして貰えるか?」 「大輝さんはいつでも来て大丈夫じゃないかな? 榎本のおじ様が海外で成功されてることも、いつもネットニュースとかで確認してるから」 あまり善三おじさんと親父が仲良いイメージがないから、不思議に思う。 実は仲良いのか?! 「来夢のことを助ける前に会いたいんだ。あまり時間もないし、善三さんの都合のつく日時に行くから予定を聞いて貰ってもいいかな?」 「分かった。聞いたら連絡を入れるからJOINの登録してもいい?」 「もちろん」 来夢とは出来なかったJOINの登録をする。 「あ、昔を思い出してタメで喋ってた。すみません」 「いいよタメで。全く気にしてない。俺からすると一緒に動いてる人達がみんな年上だから、黎渡と話すのは気楽で有難い」 「大輝さんも大変なんだ」 「まぁな」 顔を見合わせて笑う。 来夢ともこうやって笑い合いたい。 「大輝さんはまた海外で仕事するの?」 「いや、9月からは日本が拠点になるが?」 「大輝さんが戻って来るのなら、来夢のことは大輝さんに託したい。来夢の中でダイ兄ちゃんはずっと1番だから」 この前黎渡は来夢を好きなんじゃないかと思った。 違うのか? 「黎渡は来夢のことを……兄ではなく1人の人として好きなんじゃないのか?」 「それは無いよ。兄って言うより弟だと思ってるけど。これでもちゃんと好きな人いるしね」 「そうか……」 一瞬ルイくんの顔が浮かんだ。 あの子が黎渡を慕っているのは間違い無さそうだが、黎渡の好きな人が学校の同級生の可能性もある。 いや、その可能性の方が高い。 変に波風を立ててルイくんから離れてしまったらあの子から恨まれそうだ。 「話しは終わった?」 柔らかい声が隣からして、そちらを向くと拓海さんが微笑んでいた。 「あ、すみません。黎渡と話しがしたいって言ってましたよね?」 「そんなに慌てなくていいよ。幼なじみっていいよね。一瞬であの頃に戻れるから」 「あの?」 黎渡が困惑した顔で拓海さんと俺を交互に見る。 「初めまして。地迫拓海といいます。明さんの婚約者で心療内科医をしてます。来夢くんとも話しをさせてもらっていてね。是非黎渡くんとも話をしたいって思っていたんだ」 ふわりとした笑顔と雰囲気に黎渡の緊張が解けるのが分かる。 やっぱり拓海さんも凄い人だな。 「俺は小休止で、明さん達とコーヒーでも飲んでますのでごゆっくり」 俺が席を立っても黎渡は拓海さんに釘付けだった。

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