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第448話.存在
カランカラン
扉が開く音にそちらを見る。
何度目かでようやく吾妻さんが入ってくるのが見えた。
そのすぐ後にルイが入って来た。
「黎渡くん、他のお客様もいるからここで待ってようね」
拓海さんにそう言われて自分が立ち上がってルイの元に行こうとしていたことに気が付いた。
ルイは俺に気が付くとこちらに来てくれた。
「黎渡さま、お久しぶりです。あの、コレ……嬉しかったです」
以前俺があげたピンで前髪をとめる。
現れた吸い込まれるような碧い瞳と、その色によく似た透き通った青い石の付いたピン。
「久し振りだな。うん、似合ってる」
頭を撫でると嬉しそうに笑うその姿が本当に可愛い。
新しい働き口を用意してくれるというのに断るのには、何か理由があるのだろうか。
出来ればこうやって笑って過ごして欲しいと思うのだが………
「ルイ」
「はい、なんでしょうか?」
向かい合わせに座って目を合わせる。
ルイは小さいから少し見下ろすようになってしまう。
「西園寺さんの家を出ることになったら行くあてはあるのか?」
俺の質問に俯くと小さく首を左右に振った。
「ありません」
「なら、どうして明さんの紹介を断ったんだ? 今ならまだその紹介を受けられる……」
「いいんです! 僕は一緒にいる人を不幸にしてしまうので、1人になった方がみんなのためなんです」
何をどうしたらそんな結論に至るのだろうか……?
「ルイ、そんな事はないだろ?」
「あります。記憶にある母親にも産むんじゃなかったって言われましたし、今回西園寺さんもどうにかなるのでしょう?」
ルイの言葉に何と答えればいいのかが分からない。
俺は黙って見つめることしか出来なかった。
「………そもそも僕には戸籍がありません。存在すら証明できないんです。こんなに素敵な人達といてはいけない。僕には路上生活が似合っているから」
「それは違う!」
肩に手を置かれて見上げると拓海さんがいた。
「ルイくん、初めまして。僕は地迫拓海という名前です。さっき母親がって言っていたけど、何か渡されたものとかはない?」
ルイはいつも首から下げているポシェットの中から1冊の手帳を取り出した。
「これだけは大事に持っているようにって」
「見せてね」
拓海さんはその手帳を手に取ると中を見た。
「母子手帳だね。ご両親の名前も書いてあるし、写真も挟まれてる。これならちゃんと手続きをすれば戸籍を作ることが出来ると思うよ。その手助けをさせてもらえないかな?」
「え?」
「それで、もしもルイくんが良ければ僕の子供にならない?」
「………へっ?????………」
思わず明さんを見たらすごく優しく微笑んで拓海さんを見つめていた。
明さんもルイと家族になってもいいって思ってくれているってことだよな?
スゴい。
やっぱり自分は子供で、なんの力もないって思い知らされる。
「そんな……こと………」
「まずは戸籍を作ることからだね。その後のことは考えておいて欲しいな」
ふわっと笑う拓海さんは聖母マリアのようだ。
「僕に戸籍が……? 普通に暮らせるようになる?」
「大丈夫だよ。ルイくんにはこんなにたくさんの味方がいるでしょ?」
みんなが優しい笑顔でこちらを見ている。
それを見てルイは大きな目から涙を流した。
「あり、がとっ……ございっ、ます………」
立ち上がって深々とお辞儀をする。
「今度、僕が勝手に息子だと思ってる子達とも会ってね。あ、そこに来夢くんも入ってるから」
「え?!」
来夢と双子の俺もこの素敵な人の息子ってことか?
それは残念だ……残念?! 何が?
頭の中が混乱する。
前を向くとルイが本当に嬉しそうに微笑んでいた。
その顔を見たら混乱も無くなって、俺まで嬉しくなる。
俺の頭の中はルイで埋め尽くされて、好きだと思っていた女の子のことも、拓海さんのこともすっかり抜け落ちてしまっていた。
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