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第449話.交渉失敗

藤岡さんとは西園寺コーポレーションの最寄りの駅から3つ離れた駅前にある喫茶店で待ち合わせ、今向かい合わせに座っている。 (まさる)さんの時から経理を担当しているらしく、メガネをかけた神経質そうな自分よりも歳上の男性だ。 「話しは分かりました。私も靖さんの行動は目に余るものがあると思っています。しかし、大様より靖さんをお願いすると言われたので……その時より、自分も一緒に沈むことも覚悟しています」 信頼しているのは大さんのこと。 大さんから言われたことは絶対で、曲げられることはない。 例えおかしいと分かっていても靖さんの味方をすると言う。 どんな話をしても意味をなさないことが分かる。 大さんが靖さんを大切に思うように藤岡さんも靖さんを息子のように思っているのかもしれない。 ここが崩せないと計画の頓挫まで考えられる。 大さんに会う必要がある……か。 藤岡さんに会う前にアポを取っておいて正解だった。 西園寺コーポレーションも西園寺家も大さんが1代で築いたものだ。何も話さずに計画を実行する訳にもいかない。 本当なら全ての計画を伝え、もう実行した事を話す予定だったが、大さんに藤岡さんを説得してもらわなければならなくなった。 「分かりました。この計画のことを靖さんに伝えますか? あなたの立場なら……そうされますよね……?」 「いえ、お伝えするつもりはありません。西園寺コーポレーションを支えて下さったみなさんの再就職が上手くいかなかった、などあってはいけないので。私は静かに会社とともに沈みます」 「あなたを欲しがる企業はたくさんあります。念の為資料はお渡しするので、考えるだけ、考えてみて下さい」 藤岡さんは机に置かれた用紙をチラリと見ただけで顔を上げた。 「汚れた金の流れを全て知っているのは私だけです。おそらく私も逮捕されます。そうなればこれは必要のないものになります。他の経理担当の者に譲ります」 「その方達の再就職先はもう決まっています。決まっていないのは、あなただけです」 俺の言葉にほっとした顔を見せたこの人は、全ての罪を自分が被ろうとしていると感じる。 そんな事はさせてはならない。おそらく大さんもそんな事を考えて靖さんを託した訳では無いだろう。 明後日会うことになっている大さんにどう告げればいいのか……ここで間違えれば、今までの苦労も水の泡で、来夢くんを助けられなくなってしまう。 あとその日まで7日で、大さんと会う日にはもう5日しか残っていない。 警察にリークをしても、警察も裏を取れなければ逮捕も出来ない。 出来れば3日前までに全ての資料を添えて警察に持って行きたい。 大さんと会ってからその日までは1日半か……。 考える時間が欲しいと言われることを考慮しても………間に合わない可能性もある。 資料をまとめる為に喫茶Rainにいるみんなの元へ向かった。 「藤岡さんには断られたよ。明後日大さんに全てを話して、藤岡さんを説得してもらう以外に手立てはない」 「実の息子を売り渡しますか?」 「そこだよな。断られてからずっと考えていたが、まずは未成年に対しての強制わいせつを訴えて、その後で会社の件をリークする。それともこのまま突き進んで全て合わせて警察に持っていくか………」 どうすればいいのかみんな考えて、静寂が訪れる。 「明さんは西園寺さま、あ、大さまはどうされると思いますか?」 それを破ったのは晴臣だった。 「あの方はとても正義に熱い人だ。それを逸脱する事は誰であっても許されない。俺はそういう大さんしか見てこなかった。変わりないなら……靖さんは見限られるだろう………でも…………」 「一線を退いた後となると、その考えも変わった可能性がある……?」 今まで1度も発言をしてこなかった雨音さんがそう言うと、俺の横に立った。 「雨音さん?」 「実は大さんがまだ現役の頃、よくここで休憩していたんだ。あの頃から靖さんのことにいつも頭を悩ませていた……俺の印象も明さんと一緒で、全てを話したら味方になってくれると思う」 一樹が黙って手を上げた。 「何だよ、好きな様に発言していいぞ」 「拓海さんなら、話すだけでも相手の事が分かるんじゃないかな。一緒に行って話したらいいと思うんだ」 拓海を連れていくことは考えていなかったが、確かに拓海ならば俺達には見えないものが見えるかもしれない。 大さんに会うのは明後日の午後3時だ。 今日中に拓海に話しておけば休みも取れるか……? 「連絡してみよう」 拓海は電話に出てくれた。 事情を話すと、午後からは休みを取って大さんの所に一緒に行くと言っていた。 なかなか上手く進まないな……… 助けることが目的だが、人を失脚させることはやはり難しい。 明日は俺も資料の整理を手伝おう。

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