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第451話.まとめた資料

「大野さん、犯罪者をリークしたいと言っていたアレか?」 「えぇ、資料のまとめに時間がかかってしまいました」 親父のことでお世話になった刑事さんの渡会(わたらい)さんと駅で待ち合わせをして、喫茶Rainに来てもらった。 「もしかしたら管轄外かもしれないですが、他のものに紛れてしまうのを避けたくて………」 「急いでどうにかしたいということか?」 「はい。逮捕状が出るのなら、18日の夕方までにお願いしたくて」 渡会さんは目を見開く。 「3日後?!」 「資料は完璧にまとめられています。被害に遭われた子達からも話を聞ける状態になっていますし、会社の裏帳簿も入手済みです」 「え? 何のことだ? 誰のどんな罪なのかちゃんと聞かせてくれ」 そう言われて自分が何の説明もしていなかったことを思い出した。 渡会さんと向かい合わせに座り、アイスコーヒーを1口飲む。 それと同時に頭も冷えて冷静になる。 「リークするのは西園寺靖のことです」 「西園寺……アレは警察内部でも目を付けている所があったはずだな」 「そうですか……では今回の資料が役に立つかもしれません。1つは未成年者に対しての強制わいせつです。資料としては映像と、下調べをした時のデータがあります」 映像とそこに映る子供の資料を並べる。 「酷いな……この子供達はどうやって連れてこられたんだ?」 「情報提供者が言葉巧みに連れて行ったようです。そちらについてはこちらに任せて頂けますか?」 「分かった」 「もう1つは西園寺コーポレーションの粉飾決算の証拠です」 表向きの帳簿をパソコンで表示し、裏帳簿は原本を広げる。 「コレ! どうやって手に入れた? 警察内部で動いているヤツらもコレが手に入らなくて頭を悩ませていたんだぞ?」 「経理担当の藤岡さんから預かりました。あの方は証言もして下さると言っています。全ては靖さんの命令によるもので……」 「藤岡さんの処分については、本人の話を聞いてからになるだろう」 まとめられた資料を捲り、渡会さんは薄く笑う。 「恐ろしい程、分かりやすくまとまっている。精査に少し時間はかかるかもしれないが、18日の夕方をリミットとしてこちらも動きます。粉飾決算についても、この裏帳簿が本物かどうかが分かれば直ぐに行動に移せる」 渡会さんはスマホで西園寺コーポレーションを調べていた人に連絡をとる。 「俺はこっちの強制わいせつの方の裏付けをすることになるな」 「資料をまとめた榎本です。1人1人に付箋を付けていますが、色によって意味が変わります。まず、ピンクは警察の方に会って話をしてもいいという人。水色は………」 大輝が主体となってまとめられた資料は全てが時系列で並んでおり、とても見やすいものとなっている。 渡会さんの質問にも淀みなく答える姿は、仕事の出来る男だった。 渡会さんはスマホで呼び出され、西園寺コーポレーションを調べている刑事さんを連れて戻って来た。 「裏帳簿を手に入れたというのは本当ですか?!」 その刑事さんは開口1番にそう言うと、資料を手にして安堵の溜め息をつく。 「藤岡さんがこれをあなた方に?」 「えぇ、証言もして下さると言っていますし、記載で分からないことがあればそれも全て答えるとおっしゃっていました」 「逮捕状の請求は直ぐにでも出せる状態になっていますが……コレが本物かどうかを調べるのに1日はかかります。逮捕状の請求をしても、それが通るのにも時間がかかります。先程渡会さんから18日の夕方を期限にと聞きましたが、おそらくギリギリになると思います」 やはり思った通りだ……… 「それでも、こちらからはお願いをするほかありません。今回まとめたこの資料は好きなように使用して下さい」 「分かりました。こちらも全力で動きます。西園寺靖にはこれ以上好きに行動させないようにしますよ」 西園寺コーポレーションを調べている刑事さんも渡会さんも、俺達がまとめた資料と帳簿を持ってそれぞれの持ち場に戻って行った。 ギリギリでもいい。間に合ってくれ! 俺達にできることは祈ることだけだ。 タイムリミットまであと3日

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