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第452話.バイク
資料を警察に渡して、自分が説明できることは全て話した。
後は逮捕状が出るのを待つだけだ。
西園寺のおっさんを守ろうとする人は誰もいない。
藤岡さんがこちらに付いた時点であいつは独りになった。
来夢を助けるために俺はバイクであいつの車を追うことにしている。
静くんにバイクで、と言われてある人に本体とチューニングを頼んでおいた。
昔からバイクのことはこの人に全て頼んでいる。
「こんにちは、お久しぶりです。ケントさん」
「大輝、こんにちはじゃねぇよ。いきなり最速でチューニングしろって言うから頑張ったのに取りに来るの遅くないか?」
怒っているように見えて、かなり温厚な人だからそうでも無い……と信じたい。
「すみません。どうしても時間が取れなかったもので……ヘルメットも2つ買うのでそれで許して貰えませんか?」
「2つって彼女か?」
「そんな感じです。ピンクの可愛いのとかあったら嬉しいですが………」
ヘルメットを置いてあるところに視線をずらすと、思い描いていたようなヘルメットがあった。
「これ……まだ売れてないなら買います。それとこの黒いのを」
このピンクのヘルメットは絶対に来夢に似合う。
黒いのは側面と後ろにゴールドのラインが入っていた。
「売れてたら置いてないよ。それとこれな。試しに乗るだろ? メットも被ってこの辺りを1周してこいよ。仕方ないからここからのチューンアップは無料でやってやる」
とどのつまり、この人はバイクバカなんだよな。
「ライダーズスーツも新調しないとだった。………これ、着てみてもいいですか?」
自分のサイズのものを試着すると、ピッタリで気持ちも引き締まる。
ヘルメットを被り、真新しいバイクに跨るとワクワクする。
エンジンを吹かし、そのまま走らせる。
そこまでスピードは出せないがとても走りやすくチューニングされている事は分かる。
ずっと乗っていたくなるが、ひとまず戻った。
「どうだった?」
「流石です。明日高速を走ってくるので、そうしたらまたここに戻りますね」
「分かったよ。昼以降は店開けておく。少しでも気になることがあったら言えよ?」
「分かりました。今日は乗って帰るので、代金払いますね」
差し出された伝票には破格の値段が書かれていた。
「え? 安すぎじゃないですか?!」
「いいんだよ。大樹が俺のことを覚えててくれたのが嬉しいからな。日本に戻ってくるんだろ? 今度飲みにでも行こう」
「ケントさん………。分かりました。俺の奢りで飲みに行きましょう」
がっちりと握手を交わし、代金を支払うとまたバイクに跨る。
「明日遠出するなら、まず燃料入れてから行けよ。何も無くても明日はここに寄ってくれな」
「ありがとうございます。そうしますね、ではまた明日」
「あぁ」
少し遠回りをしてから部屋に戻った。
来夢のことが終わるまでは仮住まいとして借りている部屋。
来夢に思いを告げてその結果がどうなるかにもよるが、このままここに住むか新たに住む所を探すかはその時に考えようと思っている。
必要最低限のものしか置かれていない部屋は生活感が全くない。
ソファに座りビールを飲むが、全く美味しく感じない。
来夢を助けたい一心でしてきた事も終わってしまい、すこし気が抜けているのかもしれない。
「来夢……」
名前を口にするだけで甘ったるい気分になる。
「助けるからな………」
例えおっさんの逮捕状が間に合わなかったとしても………絶対に助けるって決めている。
バイクであとをつけるのも神経を使う。
おっさんに気が付かれないように、特に葉山の別荘が近づいてきたら慎重にならざるを得ない。
そこで見失っては元も子もない。
ある程度の場所は分かっているのだが、ネットでストリートビューを使って見てみても同じような建物が建ち並ぶ地域だった。
色々と考えていたらそのままソファで寝てしまった。
朝日の眩しさに目が覚めてシャワーを浴びる。
朝の清々しい空気を堪能するためにバイクを走らせた。
明日の予行演習ではないが葉山へと向かった。
海沿いのカフェでブレックファストプレートを食べる。
野菜が苦手な俺でも新鮮だと見ただけで分かるサラダとクロワッサン、卵は希望を聞いてくれたので目玉焼きを半熟でお願いした。
海外ではよく焼かれてしまうので、殆どの場合でスクランブルエッグかオムレツにしていた。
コーヒーはやはり雨音さんの淹れてくれるものが1番だが、ここのもまあまあ美味しかった。
事前に調べた別荘の辺りまで行く。
別荘に表札を付けている所はあまり無いなか、西園寺の別荘には立派な表札が出ていた。
場所を頭の中にインプットするが、夕方になり薄暗くなるとうまく辿り着けないかもしれない。
スマホで地点登録をして、迷った時はコレを使う事にした。
少し離れた位置だが防犯カメラに映っては具合が悪い。
早々にそこから離れて一路帰途にたつ。
「ケントさん」
「大輝、どうだった?」
「加速も維持も問題ないですが………」
気になったことはホンの些細なことだが、それが重要なことだと分かっているので全てを伝える。
「わかった。チューンアップしておくよ。明日の午前中に取りに来るだろ? 10時には仕上げておくよ」
「ありがとうございます」
恐らくケントさんにバイクを預けることになるだろうからと、着替えを持って来ておいて正解だった。
「あ、そういえば肘当てとか膝当てってありますか?」
「彼女用か? 心配症だな。用意しておくよ」
「お願いします。怪我させたくないですから。対策をしておくに越したことはないと思っているので」
「はいはい」
着替えて財布を尻ポケットに入れてここを出る。
明日が運命の日だ。
体調を整えるためにちゃんとベッドに横になった。
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