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第453話.出陣

ぐっすりと眠れるわけが無いことは分かっていた。 目を閉じれば無理に笑顔を作ろうとする来夢の姿が浮かぶ。 昔の屈託なく笑う来夢がその横に並ぶ。 『ダイ兄ちゃん! 今日も遊んでくれる?』 『また明日ね!』 そうだ。明日の約束をしたのに、俺は別れもせずに海外へ行ってしまった。 もしかしたら来夢が上手く笑えなくなった原因の1つは俺なのかもしれない。 その俺がどの面下げて告白なんて……と思うが、溢れそうになるこの想いは玉砕すると分かっていても伝えると決めたんだ。 ハッと目を開ける。 どうやらいつの間にか寝ていたらしい。 窓に目を向けると少し明るくなっているが、日は差し込んできていない。 スマホで時間を確認すると朝の5時だった。 シャワーを浴びて完全に目を覚ますと、財布を尻ポケットに入れて、着替えを入れる袋もポケットにねじ込む。 あとはケントさんの所に行けば全て揃っている。 朝から日差しが厳しくて、気温がどんどんと上がっていくのを感じる。 今日は終業式だと聞いている。 来夢の行動が分からないのなら学校から付いて行くのが間違いないだろう。 どこかで見失った時は別荘に向かえばいい。 そう思っていた。 マンションの近くのカフェで軽く朝ご飯を済ませる。 何もする気が起きずにそのままケントさんの所に向かった。 「大輝? 早いな。でも、そんな気がしていたからチューンアップは終わらせてあるよ。少し走らせてくるか?」 真っ黒なライダーズスーツに黒のフルフェイス。 真夏に片足を突っ込んだように日差しが厳しい今日は、汗だくになりそうだ。 「すぐに戻ります」 お試し走行と同じルートを走ったが、何も気になることなどなかった。 「おかえり」 「流石ケントさんです。完璧ですね」 「今日は何かあるんだろ? 何か他のことを考えながら乗ると事故るから気をつけろよ。ピンクのメットの彼女の為にもな」 ピンクのヘルメットの中に肘当てと膝当てを入れてバイクの物入れに入れる。自分の着替えも入れると殆ど隙間もなくなる。 「分かってます。それに何かを考える余裕はないと思うので」 西園寺のおっさんの車を追うことに集中するしかない。 本当ならその車に乗る前に助けたいが、そういう訳にもいかない。 「とりあえず、コレやるよ」 ケントさんに渡されたのは交通安全のお守りだった。 「何かあった時は神頼みになるからな。持っておくに越したことはないだろ?」 思わず笑ってしまう。 「何笑ってる?」 「いえ、元は族のトップだったのが信じられないなぁって思って。やっぱり結婚して子供も出来ると変わるんですね」 「うるせぇな、文句言うなら返せよ」 「いえ、俺も守りたいものがあるので……貰いますよ」 今働いている会社の設立のために半年間だけ帰国していたその間に、知り合って仲良くさせてもらっていた。 バイクは海外でも乗っているが、この人の技術のレベルは他を寄せ付けない程だ。 出来れば自分のバイクについてはこの人にずっとみてもらいたいと思っている。 「そろそろ行くか? 何かあればいつでも連絡しろよ」 「そうさせてもらいます。今回は色々とわがままを聞いて頂いてありがとうございました。飲みに行く約束しましたよね? また連絡します」 「大輝が暇な時にな。……気を付けて行ってこい」 「はい」 メットを被ると声は殆ど届かなくなるから軽く手を上げて挨拶をする。 聖凛に向かおうとして、来夢が電車を使うと追えないことに気が付く。 考えが浅かったことに舌打ちをしたくなる。 ナビ代わりに使用しているスマホが震え、静くんの名前が表示される。 バイクを路肩に停めてスマホに出る。 「もしもし」 『大輝さん? 良かった、繋がって。来夢くんですが……1度家に帰ってから……1時半頃に▲●○■○駅に……待ち合わせしてるって』 「静くん、教えてくれてありがとう。来夢のことは任せてね。必ず助けるから」 『お願いします』 教えて貰った▲●○■○駅へ向かった。おそらく車で待ち合わせるのならここしか無いという所が見える位置にコンビニがあり、そこにバイクを停める。 立ち読みをする振りをして、そこから監視をする。 事前に調べたら西園寺のおっさんの車はベンツで、ナンバーも控えてある。 1時20分におっさんの車が来た。 追いかける為に俺はその車から2台後ろにつける。 車の中を見ることは出来ない。 25分に来夢が来た。 ………何だ? あの格好は……… おっさんが選んだ服か? 来夢の良さはかき消されている。 はっきり言ってダサい。 来夢が嫌そうな顔で車に乗り込み、車が動き出すのを確認してからこちらも発進させる。
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