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第455話.救出

ドアが開いたことと、来夢がまだ毒牙にかかっていないことが嬉しくて離れられない。 「来夢!!! こちらに来なさい。お前も俺のものに触るなんて、ただで済むと思うなよ」 人が来夢との再会を喜んでるのに、穢らわしい声でこの場の雰囲気を壊さないで欲しい。 しかも来夢はおっさんの声にビクっと身体を震わせてから離れようとする。 行かせたくない その気持ちが大きくて片手で抱き締めたままメットを取る。 「扉が閉まった時は冷や汗をかいたよ。とにかく間に合って良かった」 「お願い、離して。行かないと………」 言葉に力はなく本当は行きたくないと思っている事が伝わってくる。 「来夢、俺の事を信じて」 「え?」 「大丈夫だから、一緒に戻ろう」 俺の目を見て頷こうとした来夢をまたおっさんが遮る。 「来夢! 同じ事を何度も言わせるな!」 「……っ!……ごめんなさい! ダっ、榎本さん……僕は靖さんの所に行きます」 腕の力を抜くと泣きそうな顔をしておっさんの方へ行こうとする。 腕を掴んだ。 高校生にしては細い腕だ。 「そんなに悲しそうな顔をしてるのに、行かせられないよ」 来夢の体はおっさんに向いているから後ろから抱き締める。 ほんの少しでもおっさんのそばには行かせたくない。 おっさんは本気で来夢を想っているのだろうか? 声は荒らげるが、自分から来夢を奪い取ろうとはしない。 その証拠におっさんはずっと同じ位置から動こうとはしない。 来夢越しに目が合うが険しい顔にはなるものの、やはり動こうとはしない。 後ろのドアが開いた。 「おいおい、時間を稼げとは言ったけど、来夢くんを取り合えとは言った覚えはないぞ? 大輝」 「明さんが遅いんですよ! で?」 「ああ、もう今頃ニュースにもなってるだろうな」 明さんが入って来たということは、おっさんに逮捕状が出たという事だ。 「大野明か? なぜお前がここに?」 「靖さん、お久しぶりですね。あなたの会社は潰れましたよ。あなた自身も警察に拘束される。西園寺家も終わりですね」 おっさんの携帯が鳴り、慌てたようにそれに出る。 「私だ……何?! そんなことがあっていいと思っているのか?」 来夢に対するよりも語気が強いが、そこまで言うと呆然と携帯を見つめた。 誰も味方がいなくなった金持ちは見るに堪えない。 「会社の人間も西園寺家にいる人間も、お前を助けようとする人は1人もいなかったよ。残念だが、有栖川を助けることも出来なくなったから来夢くんは返してもらう」 「でも、念書が………」 来夢の絶望するような声が響くのと同時にまた後ろのドアが開く。 「来夢、それは破棄することにしたよ」 「お、お父様?! お願い、離して。逃げないから!」 切羽詰まった声に思わず来夢を離す。 すぐに善三おじさんの前に行くと深くお辞儀をした。それは父親に対するにしては丁寧過ぎると感じる。 「どうしてお父様がここにいらっしゃるのですか? ご自分で見届けないと、僕が逃げ出すと思われたからですか?」 「そうでは無い。私の愛し方は間違っていたと気がついた。これからは来夢が笑顔でいられるように見守る事にした」 「え?」 来夢は驚いて固まった。 ポカンとする来夢も可愛いなぁ 「何を勝手に話を進めている!」 「西園寺さん、私が間違っていたのだよ。有栖川の家よりも来夢の方が大切だと気が付くのに時間がかかってしまった。あなたの援助はいらない。もう二度と来夢にも近付かないでくれ………これはもういらない」 もうおっさんが逮捕されると分かったら他のことはどうでも良くなった。 俺はずっと来夢を見ていよう。 「来夢、有栖川家を、みんなを助けようとしてくれてありがとな。もう自由になっていいよ」 善三おじさんに頭を撫でられた来夢はポロリと涙を零した。 「警察が来る前に俺達も行こう。色々と面倒だからな。車はいっぱいだから、来夢くんは大輝のバイクに乗せてもらいなさい」 明さんの言葉に頷くと来夢はおっさんに背を向けたまま声をかける。 「靖さん、さようなら」 来夢は優しい良い子だ。 未だに起こったことを信じられないのか、来夢はボーッとしていた。 俺は肘当てと膝当てを付け、来夢の為に買ったヘルメットを被せた。 「来夢、後で話したい事がある」 「え? あ、うん」 ヘルメットをしていても聞こえたのか頷いたので、先に来夢を座らせてから自分も座り、発進させた。 振り落とされないようにギュッと抱き着かれると嬉しくなる。 来夢の家のすぐそばにある公園に寄る。 「ダイ…兄ちゃん?」 「ごめんな、はやく着替えたいと思うけど話しをしたくて」 自分勝手でごめん。 「……何?」 「俺は来夢のことが好きだ。恋人にしたいと思ってる」 来夢は大きい目を更に見開いて俺を見ている。 「え? ウソ……え?」 「返事は今じゃなくていいから。……JOINだけ交換してくれないか?」 スマホを取り出すとすぐにJOINの交換は終わった。 「ダイ兄ちゃん、助けに来てくれてありがとう。すごく嬉しかった」 ホッとしたのかとても良い笑顔をしている。 「間に合って良かったよ」 この笑顔を失わなくて良かったと本気で思う。 「色々と疲れてるのに変なこと言ってごめん。今日はこの後善三おじさんやおば様とちゃんと話すんだよ。家族の団欒に俺は邪魔だから家の前まで送ったら俺は帰るよ」 ヘルメットを預かり、肘当てと膝当ても回収してしまうとバイクを押して来夢を送り届けた。 「じゃあ、またな」 「ダイ兄ちゃん! JOIN送るね!」 社交辞令には感じない。また会いたいと思ってくれているということか……? 「……待ってる………」 呟くように言った言葉はバイクの排気音とフルフェイスに阻まれて来夢の耳には届かなかったと思う。 片手を上げてその場から走り去った。 来夢の頭の中はごちゃごちゃだと分かっているのに、想いを告げてしまった。 振られる覚悟をして来夢のJOINを待とう。 何度も溜め息がこぼれ、前日もほとんど眠れなかったにもかかわらず、今日も眠れそうにない…………

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