460 / 489

第456話.許せない

昔のボディガード仲間と交代で吉田眞尋の監視を続けている。 今回のことを頼む時に吉田がしていることは全て話した。 許せないと思ってくれた人しかいない。 西園寺靖さんに逮捕状が出るのは間違いない。 出来れば吉田眞尋についても手元にあるはずの画像や動画を押収して、警察に突き出したい。 「ハルさん……体鈍りました?」 「しばらくの間トレーニングをするヒマがなかったからね」 トレーニングを再開したとはいっても、あの頃に戻るのは無理だと思う。が、近づけたいとは思っている。 「体が鈍ってもお前より出来るのは間違いないよな。現役を退いてもう3年か? やっぱり能力の差を感じるよ」 「完全に抜かれたと思うが?」 無言で首を振られた。 俺は現役の頃もそこまで優秀では無かった。喧嘩と護衛は全くの別物だったから…… 「吉田のことどうするつもりだ?」 真剣な目で見つめられる。 嘘はつけない。 「本当なら人として生きていることすら後悔させたいが、そこまでは出来ない。せめて玉を潰して種無しにしてやりたい」 俺の言葉にみんなが複雑な顔をする。 想像してしまったのか股間に手を持っていく者もいる。 「話を聞いたこちらとしても、何の制裁も与えないっていうのはな。俺は反対はしない。でも、条件付きだ」 「条件?」 「あぁ、丸腰の相手に一方的に攻撃はハルが逮捕されちまうだろ? 吉田がこちらを攻撃しようとした場合……例えば刃物を取り出すとか鉄パイプを振り回すとかあればやれよ。止めたりしない。逆に加勢する」 見回すとみんな頷いている。 「吉田は明さんから現金で800万円を受け取っている。口座に振り込んだ形跡はみえないから、未だに持っていると考えるのが妥当だろう。次に家を出る時があいつの終わりとしたい」 部屋を監視している仲間が声を上げる。 「吉田が外に出る」 「行くぞ」 「あぁ、俺達はおまけだ。ハル、頼むぞ」 まるで誘拐をするかのように、外に出た吉田を気絶させてから車に押し込む。 近所への配慮として事前に調べておいた廃ビルに連れていく。 反撃されなかったからコトに及ぶことが出来ないので、身体検査はしなかった。 敦さんの為にも絶対に逮捕させたい。 その為なら刺されてもいいと考えていた。 「ん……? ここっ?」 「おはよう、吉田眞尋さん」 「何を言っている? 俺は吉野忠之だが?」 簡単に認める事はしないとは思っていたが、徹底している。 「吉野忠之さんは御歳75ですよ。W大学を出たばかりの23歳である貴方が語るには歳が離れ過ぎですね」 「調べたのか? 誰の差し金だ?」 頭が痛いのかたまに顔を顰める。 「お前は小学校高学年から中学生を監禁して色々としているな?」 「俺の質問には答えないのか? まぁいい。答えてやるからお前も答えろ。友達は多いけど、そんなことはしていない。訴えられていないのがその証拠だ」 「では、この動画は? あなたも映っているから言い逃れはできないな」 目の前に置いたノートパソコンで敦さんの動画を再生する。 「あぁ、敦くんか……やっぱり素敵な足だね。この子以上の足にはまだ出会っていないよ」 「それはこれがお前の物だという自白と取っていいな?」 舌舐めずりをするように動画を見る吉田に対して殺意しか芽生えない。 「あの子は成長が早くてね。背は150を超えると魅力を感じなくなってきてしまうんだよ。今は……高校2年生か……もう160も超しているだろうね」 俺の言葉は聞こえていないのか、それはダメだと首を横に振る。 また敦さんが穢されているように見えて、奥歯を噛み締める。 「あんたをどうにかしたいというのは、大野さんと榎本さんを初めとしたこちらの人間全員に一致したことだよ」 「ふーん。お金くれたし良い人かと思ったけど……もう会うこともないだろうし、どうでもいいかな」 「今まで撮ってきた画像と動画の全てをこちらに渡して欲しい」 絶対に嫌がると分かっていてそう言った。 「バカか? 渡せと言われて素直に渡すとでも?」 「データとしてどこかに保管してあるんだろ? パソコンかスマホかUSBか知らないが、お前がコレクションをしていない訳はない……だろ?」 吉田の荷物から取り出したものを並べる。 「この中のどれだ? 持って帰って調べれば分かる事だがその手間を省く為にも教えて欲しい」 「いい事を教えてやるよ。その中にはない。そんな分かりやすい所に大事なデータを入れるわけないだろ?」 思わず笑ってしまう。 「何がおかしい?」 「と、いうことは……コレ、ですか?」 吉田に見せたのは二重底になっていた鞄の奥底にあった小さなケースに入っていたmicroSDカード。 「てめぇ、返せ」 目の色が変わった。 「返したくないです」 ケースに戻してから内ポケットに入れる。 「死にたいのか?」 吉田がサバイバルナイフを取り出した。 小さいナイフではなく、そんな物を用意していたか……… 刃先をこちらに向ける吉田の全身を見ると、それはとても手慣れているように感じた。 もしかしたら拉致した子供達にも突き付けていたのかもしれない。 刺される覚悟は決めているが、サバイバルナイフとなると死ぬこともあるかもしれない。 この緊張感、悪くない

ともだちにシェアしよう!