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第460話.笑う
ダイ兄ちゃんは僕を好きって言ってた……?
きっと空耳だよね……でも…………
肩を叩かれて思考の迷路から現実に戻って来た。
「え? あ、ごめんなさい。何ですか?」
「気になることがあるの? 大輝くんに何か言われた?」
拓海さんに言い当てられて何も言えずに口をパクパクとさせてしまう。
「大輝くんに伝えたいことがあるんじゃない?」
「それは………」
あるけど、言ったら迷惑になるから………
「来夢、自分の思う通りに行動していいぞ」
「お父様?!」
まさかそんなことを穏やかな笑みを浮かべて言われるとは思っていなかった。
まるで別人のお父様を見つめる。
「ただし、今日はちゃんと帰ってきなさい」
僕を心配してくれてるの?
家族だって認めてくれたの?
「あ、大輝か? お前、来夢くんに何を言った? さっきから心ここに在らず状態だぞ? …………なるほどな。取り敢えずこっちに戻って来い。公園でいいな? 来夢くんは拓海が連れて行くよ」
明さんはニヤッと笑って僕の頭を撫でた。
「大輝、戻って来るってよ」
「え? でも…………」
「こういうことは、先延ばしにすると伝えられなくなるよ? 大輝くんに言いたいことがあるでしょ?」
頷いて、まだ服を着替えていないことに気が付いた。
「着替えてきます!」
あの日ダイ兄ちゃんに助けてもらった時と同じ服を着る。
あの日からずっと自分の気持ちを押し殺してきた。
それを解き放ってもいいと言われた。
止まった時を動かしたいという思いを込めて、同じ服を着た。
「来夢くん、可愛い!」
応接室に戻ると拓海さんがふわっと笑ってくれた。
とても安心する。
「おかしくないですか?」
「とてもよく似合ってるよ」
嬉しくて笑顔になる。
「ありがとうございます」
「見ないようにしていたが、来夢は自分のことがよく分かっているんだな。その格好もお前の個性として受け入れるよ」
「やっぱり来夢は可愛いわね」
お父様に頭を撫でられて、お母様に抱き締められた。
ようやく自分の存在を認められた気がして、目の奥がツンとする。
「来夢が可愛いのは昔からだろ? 気が付くの遅すぎだよ。お父様もお母様も」
「黎渡」
「大輝さんのところに行くんだろ? 泣いたらブスになるぞ」
黎渡はそう言いながらハンカチで涙を拭いてくれる。
「良かったな、自由になれて。この家の事は心配すんな。明さん達も協力してくれるみたいだから」
何度も頷いて黎渡ともハグをした。
拓海さんと公園に向かう間も、ちゃんと家族に戻れたことが嬉しくて、涙がどんどんと作られてしまう。
「嬉しい涙はたくさん流した方がいいよ。全て糧に変わるから」
「……はい………」
涙でぼやけていても、シルエットしか分からなくてもそこに立っているのがダイ兄ちゃんだって分かる。
「行っておいで。あそこのベンチで待ってるから」
拓海さんの声は聞こえていたけど、足が勝手に動いてしまった。
走って……でもあと少しの所で足が止まる。
「ダイ兄ちゃん」
「着替えたんだな。あの時と同じ服だな。よく似合ってる。可愛いよ」
「可愛いと思うのは女の子みたいだから? 僕も何年かしたら可愛くなくなっちゃうと思うよ」
ダイ兄ちゃんがこちらに近づいてくる。
その分後ろに下がる。
「来夢だから可愛いと思うんだ。女の子みたいとか関係ないよ。何年経っても俺は可愛いと思うだろうな」
「あのね、僕………ダイ兄ちゃんが…………好き…………」
すごく、すごく小さい声になってしまった。
声が届かなかったかもしれない。
しばらく何もなくて、恐る恐るダイ兄ちゃんの顔を見たら照れているのか顔が真っ赤になってる。
もしかしたら僕よりも真っ赤かもと思ったら急に可笑しくなってしまった。
「ダイ兄ちゃん、真っ赤だよ……?」
声に出して笑ったのは何年ぶりだろう。
「来夢、不意打ちは良くないよ」
気がついたらダイ兄ちゃんの腕の中にいた。
ライダースーツの上からでも分かるほどダイ兄ちゃんもドキドキしている。
「好きだよ。たぶん来夢が思っているよりもずっと……大好きだ。俺と恋人になってくれるか?」
「僕でいいの?」
「来夢じゃないとダメだ……来夢がいいんだ」
僕「で」じゃなくて僕「が」いいと言ってくれて、嬉しくてまた涙が流れる。
「僕も……ダイに……大輝さんが………いい」
ギューって抱きつくと頭を撫でてくれた。
「大輝さんなんて言われるとなんか恥ずかしいな。でも恋人に昇格したみたいで……特別な感じがしていい」
「慣れるまでは、ダイ兄ちゃんでもいい?」
「呼び方なんて何でも構わないよ。なぁ、夏休みの間に2人で何処か行かないか? もちろん善三おじさんに許可もらって」
2人で旅行?!
それって、それって、それって……そういうこと込み?!
想像してしまって顔が熱くなる。
でも……大輝さんとなら……そうなりたい………
「行きたいです」
「行きたい所があれば考えておいて」
頷くと少し力を入れてギュッてされた。
「本当ならギューだけじゃなくてキスもしたいけど、その前に善三おじさんとおば様にご挨拶だな。こんな格好で悪いけど、このまま挨拶に行っていいかな?」
いきなり両親に挨拶?!
「あんなことが遭ってすぐだから、心配するだろ? 昔は隣に住んでいたし全く知らないって訳でもないから、なんの挨拶もないって言うのは筋が通らないと思うんだ」
「今からで平気か聞いてみます」
今一緒にいるのが榎本大輝さんだと伝えたら、逆にお父様から連れて来るように言われてしまった。
大丈夫だよね???
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