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第463話.曇りのない笑顔
そんなに長い時間話していたとは思っていなかったが、コーヒーショップを出るとすっかり日は暮れて街灯が眩しい。
来夢くんの家に向かうにはここから電車に乗らなくてはならない。
駅の券売機で、降りる駅までの切符を2枚買う。
全寮制の高校では定期券を買うことも無いし、ICカードは持っていない。
電車に乗って20分でその駅に着いた。
吾妻の話ではその駅に着けば有栖川家がどこにあるのかはすぐに分かると言われたが………
改札を出て辺りを見回すがちょっとよく分からない。
「有栖川の家はあそこだと思います」
ルイくんが指をさした方向を見ると、他とは明らかに大きさの違う家があった。
あれを見落としていたのかと思うと恥ずかしい。
「行こうか」
手を繋いでまた歩き始める。
休み休みとはいえここまで歩くのは久々だが、なんとか歩けている。
一緒に歩いているのがルイくんで、普段よりもゆっくり歩いているから何とかなっていた。
最後はなだらかだが上り坂で着いた時には疲れてしまっていた。
インターホンを鳴らして名前を言うと明さんと拓海さんが迎えてくれた。
「戻っていたの? 来夢くんは?」
「大丈夫だよ。間に合ったから。今、大輝くんが来夢くんのお父さんとお話しているところ。来夢くんは心配だからって部屋の外で待つって行ってしまったよ」
「静、電動車椅子はどうしたんだ? まさかずっと歩いて……?」
明さんに抱き上げられる。
「歩けるよ? ちょっと疲れただけで……」
「いいから、運ばれとけ」
「ルイくんも中に入ろうか」
明さんの腕の中からルイくんが拓海さんと手を繋ぐのが見えた。
嬉しそうに口元が笑みを作っていた。
有栖川家に入ると応接室だと思われる所に連れて行かれ、ソファに下ろされた。
「リハビリが順調だとはいえ、無理は良くないだろ……?」
明さんは少し怒ってる。
「吾妻から、晴臣さんが刺されたって、聞いて……急いで家を出たから」
「そういえば、容態を聞いてなかったな」
「全治2週間で、明後日には退院だって」
明さんも拓海さんも心からホッとしているのが分かる。
「明日お見舞いに、行こうと思ってる……敦も連れて」
「静くん……」
「きっとどこからか、知るでしょ? 晴臣さんが、あの眞尋さんから、刺されたって。その方が傷つくから」
拓海さんも明さんも一緒に行くと言ってくれた。
「ルイ!」
「………黎渡さま……」
応接室のドアが開くとルイくんを心配するような声がした。
ルイくんも嬉しそうだ。
「ん? 君は?」
「僕? 僕は本島静といいます。あなたは来夢くんのお兄さん?」
キョトンとしてから笑われてしまった。
明さんと拓海さんも笑ってる。
ルイくんまで口元が綻んでる。
「俺は来夢の双子の弟だよ」
「え?!」
弟?! しかも双子の……?
「あ! 静先輩がいる!」
2人が並ぶが、弟とは思えない………このことが来夢くんを苦しめてきたんだと分かった。
「来夢くん、最後まで諦めなくて、良かったでしょ?」
「うん!」
「来夢さま」
ルイくんが深くお辞儀をする。
「あ……靖さんの所でメイドをしていた? 君も解放されたんだね。良かった」
「ルイくんはうちの子になる予定なんだ」
「どういうことです?」
「明さんと拓海さんの、養子になる予定なの」
来夢くんがルイくんと明さんと拓海さんを順々に見る。
明さんと拓海さんの雰囲気はもう「親」そのものだ。
「だったら『さま』呼びはもうおしまいだね」
来夢くんの笑顔からは前に感じた影が無くなっている。
「そうだ、明日敦に会った時にも、聞いてみるけど、遊園地には、来夢くんもルイくんも、一緒に行きたいね」
「「え? 僕も一緒に?」」
2人の声が綺麗に揃う。
「嫌?」
「「行きたいです」」
また揃った声に二人とも笑う。
「じゃあ、決定だね。みんなには僕から伝えておくね」
有栖川家を出てからまず敦に電話をかけて、来夢くんが助かったことと晴臣さんが入院したから一緒にお見舞いに行こうと誘った。長谷くんには敦から連絡すると言われた。
誠に電話をしたら来夢くんが助かったことを知って、嬉しくて泣いていた。
晴臣さんの話をしたらお見舞いに行きたいと言うので、一緒に行くことになった。芹沼くんにも連絡してみると言われた。
結局皆で行くことになりそうだ。
ルイくんも一緒に家に入って、明さんの方のダイニングテーブルに座る。
元々4人がけなので、椅子の数もピッタリだ。
「あの、静さん。ヘアピンを貸して下さい」
さっき自分で言ったことを忘れてはいなかったようだ。
自分の髪に付けているピンを1つ渡すと、ルイくんは前髪をそれで留めた。
とても綺麗なブルーアイには覚悟のようなものを感じた。
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