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第464話.家族

「あの、なんと言っていいか分からない時は英語でもいいですか?」 「英語?! 僕は英会話はからっきしなんだけど……」 「じゃあ僕が、通訳するね。明さんは、問題ないよね?」 明さんは当たり前だと言いたげに頷いた。 「日本語でも英語でも、どちらでも大丈夫だから、安心して話してね」 ルイくんは僕の目を見てから頷いた。 「まずは僕から良いかな? ルイくんの戸籍についてなんだけど……」 「あのノートは役に立ちましたか?」 「保健所で相談してみたんだ。母子手帳、あのノートがあったから申請が出来たよ。おそらく3ヶ月以内に取得出来るはず」 これで戸籍が出来上がれば養子縁組も出来るのだが、ルイくんはその事をどう思っているのだろう。 「僕の存在が認められるの?」 「そうだよ。ルイくんがここに居るって証明される。その後僕の息子になって欲しいんだ」 「それは……やっぱり無理………です」 「どうして?」 嬉しそうな顔から悲しそうな顔に変わってしまった。 『たくさん迷惑をかけてしまうから……僕と関わるとみんな不幸になる』 同時通訳をする。 ルイくんの思いは苦しくて僕まで泣きそうになる。 「人生をやり直したいって思ったことは無い?」 「もちろん、何度もあります」 路上生活は過酷だろうし人として扱われなかったのかもしれない。 「いきなり家族になるのは難しいと思う。だからこそたくさん話してスキンシップをして……少しずつ信頼してくれたらって思う。僕はやり直せない人生はないって思ってる。新しい人生を僕と明さんと一緒に歩いて欲しい」 少し難しかったのか僕を見つめてきたので、拓海さんの言葉を通訳する。 僕も『やり直せない人生はない。やり直したいと思ったところから新しい人生が始まる』という拓海さんの言葉に心が救われた。 『ルイ、俺も拓海と同じ気持ちだよ。いつでも笑顔でいられるような家族になりたい』 明さんが穏やかに微笑む姿は……僕でさえかなり久々に見た気がする。 その事に驚いて通訳を忘れてたら拓海さんから助けを求められた。 すぐに通訳をすると拓海さんも嬉しそうに微笑む。 「僕達はルイくんと一緒にいることで不幸になったりしないよ。逆だから。一緒にいることで幸せを感じられる」 「でも……」 「とりあえず、戸籍が出来上がるまで、ここで一緒に、暮らしてみればどうかな? 夏休みの間は、僕も隣にいるし、勉強も教えられるよ」 ルイくんは目を彷徨わせてから……小さく頷いた。 『ルイ、これはお前と会う前に決まっていたことだが、大野家は解体する事になっている。俺には権力も何も無くなる。単なるおっさんになるが……それでもいいか?』 『どこに問題があるのか分かりません。僕は権力なんていらない。普通に暮らせれば……それでいい』 『普通』が難しいとルイくんも思っているようだ。 「遅くなったけど、ご飯食べる? 色々と途中で、出かけちゃったけど、親子丼ならすぐにできるよ」 今にぴったりな献立だと思う。 「静さんは料理も出来るのですか? 勉強と料理を教えて欲しいです」 ルイくんの向上心は見習わないといけない。 「分かった。でも今はここで待ってて」 「はい」 母のエプロンを着けて、冷蔵庫から必要なものを出す。 出汁が出来上がってから出かけたので、すぐにできそうだ。 時短の為に予め玉ねぎを炒めておいたので鶏肉に火を通して、卵を2回に分けて入れて、最後に三葉を散らして蓋をして20秒蒸らす。 ご飯を盛った丼に盛り付けて、出来上がりだ。 飲み物は温かいお茶と冷たい麦茶を両方用意した。 ルイくんの目の前に出来たばかりの親子丼を置くと、それを持ってキョロキョロと見回す。 立ち上がると部屋の隅に向かってトボトボと歩き始める。 拓海さんがルイくんの前に立つ。 「一緒に座って食べるよ」 「え? 僕は一緒に食べちゃダメでしょ?」 その表情は真剣そのもので、ふざけているわけでは無いことが分かる。 「ルイ、今までがどうだったかは知らないがここではみんな揃って一緒に食べるのが決まりだよ」 明さんがルイくんが持っていた丼を先程の場所に戻す。 僕と目が合った。 『いいの?』 目がそう訴えている。 頷いたらこちらに向かってテクテクと歩いてくる。 食べやすいように木でできたスプーンを置く。 遠慮しないように全員でスプーンで食べる。 ルイくんは一心不乱に食べていた。 今までちゃんとした食事をしてこなかったのかもしれない、そう思った。 食べ終わると眠そうな顔をする。 「ルイくん、お風呂に入ってから寝ようね。僕と一緒に入る?」 拓海さんの言葉にルイくんはピキっと固まる。 「痛いこと……する?」 「しないよ! 体と頭を綺麗に洗って湯船で温まるだけ。お風呂から出ても痛いことはしない。この家の中では痛いことはしないよ」 「ほんと?」 ルイくんは心配そうに拓海さんと明さんを見る。 「ルイに痛いことはしない。というより、したいとも思わない」 明さんは少し考えてから英語で話しかけた。 『俺は拓海を愛しているから他のやつに欲情しない。もちろん、家族になれたらルイのことも息子として愛するよ』 「静、今のは通訳しなくていいからな」 拓海さんが顔を真っ赤にしてるってことは、ちゃんと意味は理解してるみたい。 この幸せいっぱいの雰囲気にルイくんも慣れてくれるといいけど。

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