470 / 489

第466話.また1歩大人に

敦は詳しい話を晴臣さんから聞いている。 どうして刺されることになったのかも…… 眞尋さんを逮捕させる前に不能にしたいと思って、それを実行に移すにはこちらもある程度被害を受けていないと無理だと思って……だからといって怪我が長引かない様に刺させたなんて……本当に晴臣さんは何を考えているのだろう? 「怒らないで下さいね。もう森さんと一樹からこっぴどく叱られていますので」 「それで、はいそうですかって、なると思っているの?!」 「え? 静?」 もしかしたら僕が怒ったところを敦に見せたのは初めてだったかもしれない。 驚いた顔をして見つめられる。 それでも止まらない。 「自分を傷つけるなって、言っていたのは、晴臣さんでしょ?」 左腕に傷を作る度に泣きそうな顔で『こんなことはしないで下さい』と言われた。 心配されていることが分かるからいつも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 「それなのに……刺されたって、聞いて……晴臣さんなら、大丈夫だって思った、けど、万が一って考えて、怖くなったんだよ?」 堪えてた涙が溢れる。 「静さん……すみませんでした。完全に不能に出来なかったのは心残りですけど……もう二度とこういうことをすることは無いと思います。敦さんも驚かれましたよね? 本当ならこのことを話すつもりは無かったのですが」 「今のオレにはみんながいてくれて、そばに潤一がいるから……大丈夫。」 敦は前から強いって思っていたけど、長谷くんのお陰で本当に強くなったんだって分かる。 僕も鈴成さんといることで強くなれるかな……? 「眞尋さんのことはね、少し前までは好きだったのかもしれないって思ってたんだ。でも潤一と出会ってからは違うって分かった。逮捕されたって聞いても何も感じないし。写真とか動画のデータが流出しないのなら……オレはそれでいい」 敦はようやく眞尋さんとのことを過去の事として処理することが出来たみたいだ。 「晴臣さんも静もありがとう。オレの為に動いてくれたり泣いてくれる人がいるのは嬉しい」 微笑む敦はまた1歩大人に近づいたようで綺麗だった。 「この話はこれでおしまい! あの、晴臣さん?」 「敦さん、どうかしましたか?」 「森さんと何かありました? 二人の間の空気が今までとは明らかに違いますよね……?」 「僕もそれ、思った。返事したの?」 晴臣さんは頬を紅潮させてコクンと頷いた。 「森さんについて行くことにしました。しばらくは海外と日本の行ったり来たりだと思います」 「今はドイツだったよね? そっかぁ」 「ドイツ?! 言葉とかは大丈夫なんですか?」 「ボディガードをしていた時には海外の要人もいたので、主要な国の言葉は覚えましたから」 「凄い! 英会話でさえヤバいオレとは桁違いだなぁ」 晴臣さんは僕を見てからニッコリと笑う。 「俺よりも静さんの方が語学は凄いですよ」 「え? そうなの? 静」 「晴臣さんより凄いかは、分からないけど、いくつかは出来るよ」 「教えて欲しい」 ズイっと迫られる。 「夏休みの宿題とかを、含めた勉強お泊まり会でもして、英会話もやってみる?」 「やってみたい!」 「色々と考えてみるね」 晴臣さんは僕達を見て嬉しそうに頷いている。 「晴臣さん?」 「俺がいなくなっても大丈夫ですね。静さんはもっと周りを頼るようにして下さいね」 秀明さんの所に行ってから一年以上も一緒にいた人がいなくなるのは辛い。 でも幸せそうな晴臣さんを見たら悲しみなんてどこかにいってしまう。 「森さんの仕事とは、関係なく、日本に戻って、来てもいいよ。日本に来た時には、必ず連絡して」 「静さん、あなたが生きて帰ってこられて、本当に良かった。鈴成さんと幸せになって下さい」 まるで今日が別れの日のようにギュッと抱き締め合う。 「ありがとう」 「晴臣さんも森さんと幸せになって下さいね。海外生活も大変そうですけど」 僕の代わりに敦が言いたいことを言ってくれた。 拓海さんの所に行くために病室を出ると、森さんがいた。 「森さん、晴臣さんのこと、絶対に幸せにしてね」 「任せとけ。静も晴臣に心配かけないように、鈴成くんに幸せにしてもらえ」 「うん。そうだね。あれ? ルイ、迎えに来てくれたの?」 曲がり角にルイが立っている。 「静お兄ちゃん、敦お兄ちゃん、一緒に行こ?」 僕も敦もルイの可愛さに悩殺された。 敦がルイを抱き上げて拓海さんのカウンセリングルームに向かった。

ともだちにシェアしよう!