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第467話.ルイの生い立ち

カウンセリングルームではお茶会が始まっていたようで、みんなでお菓子を食べていた。 「何だ、ルイ。敦くんと仲良くなったのか?」 「敦お兄ちゃん、温かい」 キュッと抱きつくのは弟の透を思い出す。 「ルイくんは幾つなんですか?」 「13歳だよ」 「え? それにしては小さ過ぎませんか?」 中学1年とか2年とかだと思うと、信じられない。 「ルイの話をしてもいいか?」 「僕がする」 明さんの問いかけにルイくんはオレの腕から降りて椅子に座った。 思い思いに過ごしていたみんなもお菓子を食べるのをやめて、話すのも中断してルイくんを見つめた。 「僕の両親は誰だか分かりません。海外から日本に仕事をしに来た人達だったんじゃないかって言われています。僕が出来たことは想定外だったみたいで……お金がなかったからおろせなかったと言われたことを覚えています」 望まない子だと、本当は産むつもりも無かったと実の親に言われたのか? 「不法滞在というのをしていたようで、僕が産まれたことは隠さないといけないことでした。だから僕には戸籍がありません。施設にも入れなかったので、路上で生活をしていました」 「路上でってたくさん危険なことがあったんじゃ………」 思わず口にしてしまった言葉にルイくんは泣きそうになる。 「この髪と目が珍しいみたいで、10歳位から……いろんな男の人に暖かくてふかふかのベッドで眠れると連れて行かれた所で、痛いことをされました」 「それまでは?」 誠が真剣な顔をして聞く。 「捨てられてから10歳までは路上での生活を教えてくれた人が守ってくれてたから……その人は僕に何もしなかったし。でも、10歳になってすぐに死んでしまったんです。1人になった途端に……話しかけられるようになって」 「ご飯は? 食べられていた?」 潤一が質問をするとは思ってなかったが、おそらくまだ小学校低学年でも通用するほど小さいのが気になったのだろう。 「路上では3日に1度食べられればいい方で……西園寺様の所では3食出てきましたが、体が受けつけなくて……料理長さんに頼んで1食にしていました」 「うちでは最終的に、3食ちゃんと、食べられるように、なって欲しいから……献立も色々と、考えなきゃ」 静の料理なら問題なく食べられそうな予感がする。 静から英会話だけじゃなくて、料理も教えてもらおうかなぁ いつかオレも潤一に手料理を作ってやりたいし、その時に『美味い』って言わせたいから 自分の考えに恥ずかしくなる。 「成長期は人によってくる時期が違うし、今はちゃんと栄養を摂ることを考えればいいんじゃないですか?」 雨音さんは料理人の立場からの意見だ。 オレも高校に通い始めてから背が伸びたから……ルイくんの背を高くして青年になったのを想像したら………めちゃくちゃイケメンになった………… 今は確実にネコだけど想像通りになったら……どちらかと言うとタチになりそうかも……いや、あれでネコっていうのも……… って……オレはなにを考えているんだ! あんないたいけな少年で妄想とか……精神が病んでるだろ……… 「今はお試しだが、ルイの戸籍が取れたら養子として迎える予定にしている」 「え? ということは明さんと拓海さんの結婚もその頃に?」 オレの質問に2人が目を合わせる。 「それは……考えていなかったな………先に籍だけ入れるか? もちろん地迫家に挨拶も行く」 明さんって即決の人なんだなぁ 「先にということは、式もするんですか?」 吾妻さんがソワソワしながら聞く。 あの人を見ていると誠が大人になったらあんなだろうなぁって思う。 誠は顔とか髪の毛とかは拓海さんに似ていて、行動とか雰囲気は吾妻さんに似ている。 「もちろんだ。裕美も楽しみにしていたからな」 「裕美……?」 聞き慣れない名前に思わず呟く。 「あぁ、裕美は俺の死んだ母親だよ。名前で呼ぶかママって呼ぶか決めろと本人から言われて、ずっと裕美と呼んでいた」 これでママを選ぶような人だったら今一緒にここにはいなかったかもしれない。 「明さんがママって呼んでたら……笑えるのを通り越して怖いです」 「裕美さんに、会いたかったな」 静が監禁されている間に亡くなったらしいからどうやっても会えなかっただろうが、静にとってはおばあちゃんだもんな……そりゃあ会いたかっただろう。 「裕美も会いたがっていたよ」 「そっか………」 静は目を閉じた。 記憶の中のおばあちゃんと会っているのかな……? 涙がポロポロと出てきて、それはキラキラとまるで真珠のようだった。 『静お兄ちゃん泣かないで』 英語?! ルイくんを見たら泣きそうな顔をしている。 『?』が頭の上に出ている皆のために、明さんが同時通訳をしてくれた。 『ルイ、大丈夫だよ。大好きなおばあちゃんに、会いたかっただけ、だから……もう会えないと、思ったら……泣けてきた』 静も英語で返してから微笑んだ。 オレもこんな風に話せる様になったらいいなぁ 明さんのように同時通訳ができたら……格好良いけど、そこまでは望まない。 「ルイくんは日本語はどうやって覚えたの?」 「路上での生活を教えてくれた人が、根気強く……だからまだ分からないことも多くて………読み書きはほとんど出来ません」 「これから教えるよ」 静はおばあちゃんとちゃんと別れが出来たのか晴れ晴れとした表情をしている。 ルイくんのことはみんなでサポートしようってことになった。 夏休みは始まったばかり。 勉強合宿に遊園地、姉ちゃんと潤一を会わせて、潤一の家に行く………… イベントばっかりだけど、来夢もルイくんもみんなで楽しい夏休みになったらいいな!

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