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第474話.デートのお誘い

✳︎時間経過に注意 ダイ兄ちゃんはいつでも連絡していいって言ってくれたけど……こんなにすぐに連絡して呆れたりしないかな? そう思って何度もスマホを持ったり置いたりしている。 「来夢? 何してるんだ?」 「黎渡、さっきまで一緒にいたのにまた声が聞きたいなんて、迷惑だよね?」 「好きな人の声を聞きたいのは普通のことだろ。気にせず電話すればいいと思うぞ」 黎渡は穏やかに微笑む。 「そうかな?」 「お父様にもお母様にも俺にも、大輝さんにも……お前はもっと我儘になっていいよ。本来の来夢はもっともっと我儘だろ?」 確かに小さい頃はあれが欲しいこれがしたいと何でも言っていた。 それが出来なくなってからも1人で居る時には本当はこうしたい、ああしたいと枕に顔を埋めて叫んでた。 これからはそのまま言ってもいいのかな? 「言い方が悪いと思う」 「そうか? ……お父様のことまだ怖いか?」 「急に甘くなったからそれが怖いよ。そう言えば家とか仕事は大丈夫なの?」 お父様には聞けなかった。 「明さんが取引先をたくさん紹介してくれて、夏休みの間は俺もお父様と一緒に挨拶回りだよ。スーツを作るって言ったらCLASSYに連れて行ってくれるって言われてさ……スーツに恥じない仕事をしなきゃって思ってる」 僕はメイド服を作ってもらってる、なんて言えないや。 「黎渡はスーツ似合うだろうなぁ。頑張り過ぎて倒れないように気を付けてよ?」 「そうだな。でも、これは跡取りとして初めての仕事みたいなもんだから、頑張らない訳にはいかないよ」 家の事よりも自分のことを考えて良いって言われたけど……すぐには変われない。 「僕にできることがあったら言ってね」 「あったら言うよ。それより今は大輝さんに電話だな。声が聞きたいじゃダメなら他に理由を考えろよ」 頭をくしゃくしゃに撫でて黎渡は部屋を出て行った。 他に理由……? なんて考えていたら黎渡に怒るのが遅れた。 手ぐしで髪の毛を直してから、他の理由を考える。 あっ! 思いついてスマホでダイ兄ちゃんに電話をかける。 しばらく呼び出し音を聞いていたが出ない。 切ろうとしたら繋がった。 『来夢か?』 電話の声はより近くにいるように錯覚してしまう。 「うん、忙しかった?」 『風呂に入ってただけだから平気だよ』 「そっか…………」 言おうと思った時の勢いがなくなって電話なのに沈黙が訪れる。 『ゆっくりでいいよ』 優しく微笑んでるダイ兄ちゃんの姿が目に浮かぶ。 「あのね、僕、デートがしたい」 靖さんとはそういうことをしたいとも思わなかった。 壊滅的なセンスのなさに、貰った服はもう全て捨ててしまった。 でも、ダイ兄ちゃんとは色々な所に一緒に行きたいし、服も選んで欲しい。 出来ればその次のデートには選んでもらった服を着て行きたい。 『デートか、いいね。行きたい所とかあるか?』 「服を一緒に買いに行きたい」 『いつも行く所がいいか?』 「うん、出来れば」 『分かった。そこ以外は俺が考えておくよ』 「うん!」 それからも他愛ない話をして、電話を切る前に1つ質問をする。 「あの、デートっていつ行くの?」 『いつでもいいよ。なんなら明日でも』 「え? 明日?」 『さっきまで一緒にいたのにな……もう会いたくて仕方がない』 抱き締められたような気がして顔が熱くなる。 「……この電話をしたのは、本当はダイ兄ちゃんの声が聞きたくなったからなの。呆れた?」 『いや? 嬉しいよ』 「よかった。僕は何の予定も入ってないから、いつでも大丈夫だよ」 夏休みの予定は靖さんの所に行くことだけだったから。 『なら、明日会おう。家まで迎えに行くよ。電車で出かけよう』 「分かった。楽しみにしてるね!」 『来夢』 「何?」 『大好きだよ。おやすみ』 最後にチュッとリップ音が聞こえてから、電話が切れた。 これじゃ眠れないよー! 思わずスマホを手から離してしまい、ベッドの上にポスンと落ちる。 ころんと横になって目を閉じると心がほわんと温かくなる。 本当にダイ兄ちゃんと付き合い始めたんだ……… 旅行の話とかも出来るかな……? もしかしたら海外とかも考えられるよね。 起き上がって机の引き出しを開ける。 パスポートを確認したらまだ2年近く有効期限は残っていた。 約3年前の自分は幼くて、希望を忘れたみたいに無表情だ。 この頃の自分に奇跡は起きるのだと教えてあげたい。

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