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第475話.怒濤の1日
いつダイ兄ちゃんが迎えに来ても良いように、早起きをして着替える。
お気に入りのTシャツにマイクロミニのパンツを合わせる。
サンダルはこの前買ったのでいいかな……
昨日の夜は眠れないかと思ったけど、色々と有りすぎて疲れていたんだと思う。
気が付いたら朝だった。
寝坊しなくて良かった。
水でも飲もうと思って部屋を出たらダイ兄ちゃん声が聞こえてきた。
え? もう来てたの?!
急いで応接室に行ったらお父様とダイ兄ちゃんが向かい合わせに座っていた。
何この空気……ピリピリしてる………
「「来夢、おはよう」」
2人が穏やかな顔をしてこちらを見る。
「お父様、大輝さん、おはようございます」
デートはダメだって言われちゃったのかな?
どこに座ったらいいのか分からなくて立っていると、ダイ兄ちゃんが微笑んで隣をポンポンとするから……そこに座った。
「来夢、お前は承知しているのか?」
「今日のお出かけのことですか? それは僕からお願いして………」
「今日から旅行に行くのか………」
ん?
「……え? 旅行?! デートじゃなくて?」
驚いてダイ兄ちゃんを見ると楽しそうに笑ってる。
「デートの後、そのまま旅行に行きたいなって思ったんだ。来夢とずっと一緒にいたくて」
家族とのわだかまりは取れたけど、まだちゃんと話が出来ていない。
「ダイ兄ちゃん、旅行は明日からでもいい?」
「来夢……?」
「昨日は色々と有りすぎて、お父様ともお母様とも黎渡とも……ちゃんと話せてないから」
怒られるかな? って思ったけどダイ兄ちゃんはずっと優しい瞳をしている。
「分かった」
「お父様」
「何だ」
「夕方には帰りますので、デートはしてきてもいいですか?」
上目遣いに目を潤ませる。
「良いだろう。今日はちゃんと帰って来なさい。明日からの旅行も楽しんでくればいい」
お父様って実はチョロい。
こんな風に思えるようになったのもみんなのお陰。もっとちゃんとお礼を言わなきゃいけなかった気がする。
次に会った時にまたお礼を言おう
そう決めた。
デートはとても楽しかった。
僕の服を選んでくれて、ダイ兄ちゃんのよく行くお店にも連れて行ってくれた。
シンプルだけど上質だってひと目でわかる。
ランチは雨音さんの所に行こうとしたが臨時休業だった。
とても残念だったけど、ダイ兄ちゃんと一緒だと何を食べても美味しいし、何を見てもキラキラしてる。
「旅行ってどこに行くの? もしかして予約してた?」
「予約無しでも大丈夫なところだよ」
「そうなんだ。楽しみにしてるね」
本当はすごくドキドキしていたけど、隠してニコニコしていた。
僕のこの様子にダイ兄ちゃんが誤解をしていたなんて……全然気が付かなかった。
夕飯は家族で食べるようにって夕方には家まで送ってくれた。
「明日の朝迎えに来るよ。車でもいい?」
「ありがとう、待ってるね」
泊まりの旅行………
お付き合いしているんだし、そういうこともするのかな…………
して欲しいと思ってるけど……怖さもある。
スマホが鳴ってドキッとする。
画面を見たら敦先輩の名前が表示されていた。
「もしもし」
『来夢か? 敦だけど、今平気か?』
「大丈夫です」
『静から聞いてるとは思うけど、前に言ってた遊園地一緒に行こう。8月になってすぐぐらいにって思ってるんだけど、どうかな? 恋人との予定もあるだろ?』
恋人という言葉に嬉しさと恥ずかしさを感じる。
「大丈夫だと思います」
『それと、その後くらいに静の所で勉強合宿する予定なんだ。宿題も結構出てるし……それも一緒にどうかな? そこには潤一と芹沼は来ないから恋人も安心だろ? 来夢の恋人の話も聞きたいし』
「僕も長谷先輩と敦先輩の馴れ初めとか聞きたいです」
初めは長谷先輩を選ぶなんてって思ったけど、一緒にいればいるほど2人がとてもお似合いだって分かった。
いつも自然体でいられるというのも羨ましい。
『あと、誠の性教育もしないといけないって思ってるんだ。少しくらいそっちの勉強もしないと危なっかしくて目が離せない』
「誠先輩に理解できますかね? 僕も協力出来ることはさせてもらいますが……」
『それじゃ日程とか決まったらまた連絡するよ』
「分かりました。待ってます」
『ん、じゃあまたな』
「はい」
電話を切ってスマホを眺める。
周りの人に恵まれて僕は本当に幸せ者だ。
時間を見るともうすぐ6時になる所だった。
夕飯の時間だ。
ダイニングに行くともうお父様もお母様も黎渡も席に着いていた。
「遅くなってすみませんでした」
「そういう挨拶ももうしなくていいよ」
「そうね。来夢も座りなさい」
今までは重苦しい雰囲気だったのに、こんなに穏やかな気持ちで食事が出来るなんて本当に嬉しい。
食後のデザートを食べながら話をする。
「来夢も黎渡も今まで怖い父親で悪かった。すぐには変われないかもしれないが……」
「お父様! 大丈夫です。僕は色々と考えてましたが、この家を出ていくこともお父様とお母様のことを嫌いになることも出来ませんでした」
「来夢………」
お母様が泣きそうな顔をしている。
「僕はお父様もお母様も黎渡も、ここで働いているみんなも大好きだから」
だから1度は行きたくない所に行く覚悟を決めた。
「有栖川家の役には立たないかもしれないけど、これからはお父様とお母様ともお出かけしたいし、もっとお話がしたいです」
「そうだな。私も黎渡もこれから忙しくなるが、ひと段落したら家族旅行も行こうか」
「はい!」
家族の前で何も考えずに笑顔になれたのは何年ぶりだろう。
目まぐるしい1日の終わりに、明日からの旅行の為に荷造りをする。
2泊するって言ってたから……
変なことを考えそうになって、無理やり眠った。
夢で少し前の自分に会った気がする。
何を話したか覚えていないけど、穏やかに笑った顔が印象的だった。
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