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第478話.朝食
起きると腕の中にいたはずの来夢がいない。
慌ててスマホで時間を確認するが、まだ朝の8時半だ。
寝室を出るとキッチンの方から音がする。
コーヒーのいい香りもしている。
「あ、ダイ兄ちゃん。おはよう」
「おはよう、来夢。随分と早起きだな」
「そう? 昨日パン屋さんでもらったパンとベーコンエッグにするけど、卵はどうする? コーヒーメーカーがあったから、コーヒーももうすぐできるよ」
新妻か?
朝からエプロン姿の来夢が見られるなんて……昨日に引き続き仏にならないとダメだ。
「卵はスクランブルエッグにしてくれるか? ベーコンはカリカリがいい」
「僕もスクランブルエッグにしようと思ってたんだ。おそろいだね」
満面の笑みに癒される。
明日には帰らないといけないなんて……嫌だな。
自分で決めた日程なのに、もっと長くすれば良かったと今の時点で後悔してる。
「ダイ兄ちゃんはコーヒーはブラック? アイスコーヒーにしようかと思ってたけど、ホットの方がよかった?」
「ブラックのアイスコーヒーでいいよ。涼しいとはいっても熱々のを飲む気にはなれないから」
「良かった。ぼくはアイスカフェオレにするんだ!」
手際よく料理をする来夢に違和感を感じる。
有栖川家にはメイドも料理人もいたはずだ。長男である来夢が料理をすることなんかあったのだろうか。
「もしかして、僕が料理をしているのが不思議? 元々外に出される予定だったから花嫁修業もさせられてたんだ。料理もその1つ。家庭料理はよく分からないけど、ある程度は作れるよ」
パンが焼かれて、お皿にはサラダとカリカリのベーコンにふわふわのスクランブルエッグ。
コーヒーまで用意されて、ホテルの朝食のようだ。
「卵が4個入りだったから1人2個で作っちゃった。多いかな?」
「大丈夫だよ。今日の昼はカフェに行こうと思ってるが、歩いて20分くらいの所にあるから、歩いて行こうか」
「ダイ兄ちゃんと手を繋いで歩けるの? 嬉しいな」
本当に嬉しそうに微笑む姿を見て抱き締めたくなる。
可愛すぎだろ。
そこをグッと堪えて朝食を食べる。
「美味い。スクランブルエッグってこんなに美味かったか?」
「良かったお口に合って。柔らかく作るコツを聞いてたからそれで作ったんだけど……喜んでもらえるってこんなに嬉しいんだ」
来夢も自分で食べて驚いている。
誰かと喜びを分かち合うことも今までは少なかったのだろう。
これからは静くんや仲良くしている子達、もちろん俺とも一緒に何かをして笑い合う……そんな機会が増えると思う。
来夢の笑顔が曇らないようにしてやりたい。
食べ終わって片付けを手伝おうと隣に立つ。
「ダイ兄ちゃんは座ってていいよ?」
「2人でやった方が早く終わるだろ? そうしたらその分長くくっついていられるから」
俺の言葉に頬を赤く染めて見上げてくる。
「ほら、俺が水ですすぐから洗って」
「うん!」
そこまで多い数ではなかったから直ぐに片付く。
来夢は俺の後ろをついてきて、ソファに座った俺の隣に座る。
その身体をひょいっと持ち上げて俺の膝の上に座らせて後ろから抱き締める。
「ダイ兄ちゃん?」
来夢が俺の腕をそっと触る。
「どうした?」
「助けてくれてありがとね……たくさんの人が動いてくれてたのは聞いたけど、あの場にダイ兄ちゃんが来てくれたのがとても嬉しかった」
「本当ならおっさんの所に行く前に何とかしたかったけど……ギリギリになってごめん。あの時も言ったがドアが閉まるのが見えた時は肝が冷えたよ」
思い出したのか身体をカタカタと震わせるのをギュッとする。
「これから先、何があっても守るから。俺のそばにいてくれるか?」
「いいの? 僕がダイ兄ちゃんのそばにいて」
「あー、ごめん、やり直し」
「え?」
自分をかっこよく見せようなんてやめだ。
「俺がそばにいて欲しいんだ。きっと来夢が思っているよりずっと情けないと思う。それでも俺をそばにおいてくれるか?」
「そんな、情けないなんて……」
「あるよ。昨日だって来夢からあんなこと言わせるなんて……本当なら俺から………」
首を横に振られる。
「お父様から何か言われてるんでしょ? 僕にも、大輝くんにはよく言っておいたから心配ないって言ってた。何も心配なんてしてないのに……」
「………抱きたい…………」
思わず本音が口からこぼれる。
腕の中の来夢の身体が硬直するのが分かった。
「ごめん、離れるよ」
膝の上からおろして立ち上がろうとしたらこちらを向いた来夢が抱きついてきた。
「………いいよ…………」
緊張して震える唇でキスをされた。
「僕も……ダイに………大輝さんのものになりたい………」
こんなことを言われて我慢できるほど俺は人間が出来ていない。
来夢をお姫様抱っこして寝室に入る。
ベッドに降ろして上から覆いかぶさった。
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