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「いてて...」
そう言って顔を歪める椎名の手はくっきりと歯型がついていた
離れた所からでも血が滲んでいるのが見えてどれだけ深く噛み付いたのかが分かる
「ユウ!!お前っ...」
その傷跡を見た彼は険しい顔でユウに詰め寄った
「あっ...あっ...」
「いいから!!ミツルくん!!大丈夫だからっ!」
今にもユウに手を上げそうなミツルの腕を掴んでたしなめる
せっかくここまで来たんだ
ミツルとユウと椎名と三人...穏やかに過ごしてきた
三人で過ごした記憶がユウにとってできるだけ良いものになりますように
できるだけ楽しい思い出が残るように...そう思いながら務めてきた
けれどそれは楽しければ楽しかった分だけ、別れは辛くなる
「ユウ...」
気づいてしまえば、このざまだ
真っ赤な顔でボロボロと泣きながらしがみ付くユウを見ると、すべて無意味だったと思えた
まるで叫ぶように上げた声で聞こえてくるのは「嫌」と「みぃくん」だけだった
こんなに思ってくれているのにその気持ちを受け止めてやれない
どれだけ泣いても、どれだけ自分の名前を呼ぼうとも
もう振り向いて、その涙を拭ってやることはできない
ミツルは意を決して腰に巻き付いたユウの腕を取った
最初からこうすれば良かったんだ
今まで散々傷つけておいて、ここに来て最後の最後に自分をよく見せようなんて虫が良すぎたんだ
「ユウ、お前、いい加減にしろよ」
その声はユウの泣き声をピタリと止めてしまえるほど低く冷たかった
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