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カチカチカチカチ....
壁に掛けられた時計をユウは見つめていた
動いてる...あれはなんだろう
かちこちかちこち...音がする
「ユウくんっ?」
ぼんやり眺めていたユウに椎名が声をかける
ハッとして気づくと椎名はお皿を両手に持って覗き込んでいた
ユウの目線を追うように椎名も振り返り「あぁ、時計か」とうなづいた
ユウに時計を読む能力があるとは思わないが、少しで興味があるものが出てくれれば...
彼と離れる寂しさを紛らわせる何かがあればいいと思った
「これからは時間も分かるようにしないとね」
そう言いながらテーブルに食事の支度を始めた
「ご飯にしよう!とにかく何か食べないとね」
そう言って椎名はダイニングテェアを引いたのだか肝心のユウがベットから降りてこない
「ユウくん?どうしたの?お腹すいてない?」
「...?」
そして椎名は気がついた
ユウには自分で勝手にベットから降りる事も許されてはいなかった
お腹が空いたと訴える事もできなければ、もらえないまま1日が過ぎることもあったぐらいだ
その事を思い出すと急に胸が痛んで思わず目頭が熱くなる
これからは少しずつでも自分の事が自分でできるように教えてあげよう
この世界はユウが望むものが手に入る事を教えてあげたい
それは彼から託されたユウに一番必要な事だ
「さぁ、ベットから降りて、まずは何から教えてあげようか?」
泣きそうな顔を笑顔に変えて椎名はユウに手を差し伸べる
その手を恐る恐る掴んだユウの顔はすごくホッとしたようだった
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