271 / 445

4

ーーあの時、ユウをドアから放り投げたミツルはそれを止めようとする椎名の耳元で小さく囁いた 「いいからそのまま連れていって」 その言葉にどんな意味があったのか 目を見開いた椎名が見たのは疲れたように微笑むミツルの顔だった まるで何もかもを諦めてしまったようなその顔が今も瞼に焼き付いている 泣きじゃくり離れようとしないユウを説得して納得させ自らその手を離させることは...きっとできなかっただろう 離れる事がお互いのためだと頭で分かっていても、行動に移せるかは別の話で、 ミツルはやっと覚悟を決めてユウを手放す事に決めたのだ 自分にしがみついて縋るユウを見てひどく心が揺れたに違いない だからあえて、こんなやり方を選んだのだ もう戻れないと思わせることで、これから先の生活にちゃんと向き合えるように 捨てられたと思わせることで、自分の事を諦めるように "恨まれてもいいから、このまま連れていってほしい" あの一瞬の表情に彼の想いは溢れていた 椎名はそれを思い出すとひどく胸が痛なり、唇を無意識に噛んでいた 自分がついていながらあんな別れ方しかさせられなかったことが悔しい 2人のために何もできなかった自分が情けなくて仕方なかった 小さなユウを胸に抱きしめた椎名は自分に言い聞かせるように言った 「絶対また一緒にいられるようにしてあげるからね」

ともだちにシェアしよう!