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そのままユウの前になんの遠慮もなく立った涼介は上から下までその姿を見回した
「こりゃまた...ひどくやられたもんだな」
まだ消えるのに時間がかかりそうな目元の痣と包帯のぐるぐる巻きの右手を見て眉を顰めている
ユウは初めて見る涼介にあっけにとられ口を半開きで見上げていた
「ユウくん、ごめんね?びっくりしちゃうよね」
2人の間を割り込むように椎名が入りユウに向き直す
「涼介はね、僕のお友達なんだ、ユウくんも仲良くなれるといいんだけど」
椎名と涼介の顔を見比べて首を傾けるユウにできるだけ易しい言葉で説明してみるが良く理解はできていないようだった
ユウはあの部屋でミツルと椎名しか知らなかった
ひょっとするとこの世には自分を含めて三人しかいないのだと思っても不思議ではない
いきなり目の前に見知らぬ...しかもこんなよりによって柄の悪い涼介が急に現れては言葉を失っても仕方ないだろう
「よぉ、ユウ、俺は涼介っていうの、分かるか?」
涼介はユウに顔を近づけて声をかけた
「う...ぅ....?」
「お前、ユウって言うんだろ?自分の名前言ってみろよ」
次々とユウに向かって話しかける涼介に椎名は少し迷惑そうに顔をゆがめる
「やめろって、まだうまくしゃべれないんだから」
「えー、でも名前くらい言ってもいいじゃねぇかよ」
「だから、そんな簡単じゃないんだって...」
先ほどユウは椎名な自分の名前を告げることができたけれど、もう一度同じことができるかは分からない
それくらいユウにとって言葉を自分の思い通りに操ることは難しいことなのだ
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