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2人に褒められたユウは涼介に向かって小さな舌をのぞかせた 「あ?なんだそれ?」 涼介がユウには問いかけると 「あー、こらこら、だめだよ、ユウくん!」 椎名がすかさずユウの口を塞ぐ ユウは"なんで?"と不思議そうな顔を浮かべて椎名の手の中で渋々と舌を引っ込めている 頬を赤らめて嬉しそうに舌を出す仕草、椎名の慌てぶりを見て 涼介はすぐにその一連の仕草が何を意味するか理解した 「なるほどね、よく仕込まれたガキだこと」 吐き捨てるように言ってあからさまに嫌悪の表情を浮かべている 「で、これからどうすんの?」 涼介はユウを腕に抱き抱えたまま椎名に向き直った 「てか、二人でこのお部屋っていうのも狭くね?」 見渡した部屋は相変わらず汚くていくらユウが子供だといっても2人で生活するには無理がある それに椎名は現在、無職だ 当分は貯金で何とかなるとしても先立つものがなくては生活に不安しかない けれど、働こうにも今の状態ではユウを一人で家に置いておくのも難しいだろう 「そぉだな....どうしようかな」 椎名は力なく笑って頭をかく 「なぁんか頼りねぇよな、なぁ、ユウ?」 「ぅ?あぁー...」 ユウは涼介に向かってニコニコと笑顔を向けている 椎名はその姿に涼介が昔から子供の扱いがうまかったことを思い出してホッと胸を撫で下ろした 「そろそろ帰るかな」 「え?もう?」 「今日はユウの顔を拝みに来ただけだから」 抱き上げていたユウを降ろした途端、穏やかだった涼介の顔は一気に仕事モードに戻る 彼の忙しさは相変わらずらしい 涼介はいつも唐突に現れて風のように去っていく男だ 「悪いな、忙しいのに....」 「別に......大したことねぇって」 そう言うと涼介はユウの頭を撫でてから玄関に向かう 「涼介....今日はありがとう」 椎名が涼介に向かっていうと彼は吹きだすように笑った 「なんて顔してんだよ、ユウが心配するぞ」 涼介いわく、椎名は酷く不安げな顔をしていたらしい その目は"しっかりしろよ"と言わんばかりだった 「また来るよ」 「あ...あぁ、またな」 涼介はユウにチラリと目線を送ってから足早に椎名の部屋を去って行った

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