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アパートの階段を、早足で駆け下りながら涼介は無意識に呟いていた 「あれがユウか...」 椎名にある程度、話を聞いていたから覚悟はできていたはずだった 喋れない事も了解していたが、まさかあそこまで酷いとは.... 自分の名前も言えなければ理解力も乏しくて想像よりもはるか上をいっていた 話の流れでは年齢は恐らく15,6歳なのではないだろうかと言っていたが、実際のユウはその年齢には到底思えないほど小さかった 抱き上げた時の軽さといったら本当に幼児のようで驚いた 「本当に大丈夫かよ」 涼介は大通りまで出ると長い腕を掲げてタクシーを拾う 運良くすぐに捕まったタクシーに乗り込むとゆったりと腰を落として深いため息をついた 「........」 ーー俺がマサキにできることはなんだ 昔からの唯一の友人の椎名のためなら涼介はどんなことでも厭わないつもりだった 狭い二人暮らし、仕事もなしか...... ユウの目を囲む大きな痣は涼介の遠い記憶を刺激した ーーまるで昔の俺みたいだ 涼介は窓に頭を傾けて流れるネオンの帯を見つめていた そして胸ポケットから携帯を取り出すと画面をスクロールして指を止める 「もしもし、俺だけど......明日さぁ、役員集めてほしいんだけど」 涼介の理不尽な申し出に電話の相手は猛反論しているようだ キンキン声が電話口から漏れ聞こえている 「わかってるって、無茶は俺の専売特許だろ?!」 言いたい事だけ伝えると相手の答えも待たずに通話を切ってしまった ーーさぁ、明日から忙しくなるぞ 涼介はネクタイを少し緩めて束の間の休息に目を閉じた

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